白猫と悪役令嬢さん

天霧 音優

白猫と悪役令嬢さん

「ちょっと使用人!何よこれ、ティーカップが汚れてるじゃない!ちゃんと食器を洗えもしない使用人なんてクビよクビ!」


私はそばにいた使用人に大声で呼びかける。


まったく、使用人ってやつはどうしてこんなにも家事をこなせないのだろうか。


「す、すみません…!今すぐ新しいのに取り替えますので……!」


使用人はあわてた様子でティーカップを手に取ると逃げるようにして部屋を出て行った。




そして、突然だけど私の名前は「マリー・シュミット」という。

なぜか家族は私のことを嫌うが、どうしてかはわからない。私が嫌われる要素なんてどこかにあったかしら?

まぁ…、別に何でもいいんだけど。


ただ私は使用人がもう少ししっかりしてほしいのが難点だと思うわ!さっきのティーカップだってそう。ろくに食器も洗えやしないのかしら。床にもシミは作るし。他にはお母様のこと。私は嫌いだから弟に当たってるのにお母様はそれを止めようとするのよ?


きらいだからいじめて何が悪いのかしらね?私にはさっぱりだわ…。




「マリー様、紅茶でございます…!」


先ほどの使用人が足早に駆け寄り、目の前のテーブルにそっと紅茶の入ったティーカップを置く。

私はそれを時間をかけ飲み干すと、それを片付けるよう言い庭へとつながる廊下を歩く。

庭へ出ると、目の前にいっぱいの花がうつされる。

前まではこの飛び込んでくる色とりどりの花に目がちかちかしてたけど最近はこの花たちにも慣れてきたもの。

そして花を眺めながら歩みを進めていくと、無意識に落とした視線の先に猫がいるのを見つけた。

私はしゃがみ込むと、その猫をじっと見つめる。

人懐っこいのか、猫はゆっくりと瞬きをする。

これが猫の中での警戒心がないという合図だろうか。私は猫に同じようにして返すと、雪のように白く整った顔つきをした猫は「ニャ」と短くなく。


何だかこの猫を見ているとさっきのことも噓のように洗い流されていくような気がした。

そして私は猫を触ろうと手を伸ばし首をすりすりと撫でてやった。


すると猫は気持ちよさそうに目細めてゴロゴロとのどを鳴らしていた。


「…可愛い。」


私は無意識にそうつぶやいていた。


次に私は背中をスッとなでる。


野良猫にしてはさわり心地の良い毛並みで今すぐにでもぎゅっと抱きしめてみたい。




それにしてもなんでこんなところに猫がいるのかしら…


入ってこれるような場所なんてないはずだけど…。


私は猫を撫でながらあたりを見回すが草花が邪魔して何も見えなかった。


そして私は視線を猫に落とす。




猫を触る機会は全然なかったけど猫ってこんなにも可愛いものだったのね…。これだとみんな飼う理由も納得するわ。これはぜひうちでも飼ってみたいものね。


「んにゃぁ~」


猫はそう一鳴きすると私の顔の方によって自分の顔を私の頬に摺り寄せた。


私は突然寄りかかってきた猫に思わず体勢を崩しそうになるも片手で猫を支えながら片方の手を地面につくようにして体勢を保った。




なんだろう、手に小石が付くのとかも関係なく、ただただこの猫をめでていたい…。


こう思ってしまうのは人間の本能?


あぁ…、私がこんなにも虜にされてしまうような猫がいたのね…。




私はなんだか癒された気分になって寄りかかる猫を抱き上げてぎゅっと抱きしめる。


ふわふわな毛が私の顔をくすぐるように滑っていく。


毛布を顔にするりつけてるみたいな、気持ちいい感覚だった。




今まで弟とかいじめてきたけど…なんか猫で癒されすぎて嫌いとか関係なくもうずっとここにいたいなぁ…。




「もう…いいかな。また会おうね~白猫ちゃん。私の弟もあなたみたいに優しく接してみるわ。」


私は笑顔で手を振りながらそう言った。

散々嫌なことしてきた私がばかみたい…

でもほんとになんでみんなが私を嫌ってるのか全く分からないのよね…

今度からは嫌いでも優しく接してみようかしら…




はぁ…猫ってかわいい。






ーーーー


弟視点




…あれ、姉さま…?なんでこんなところに…




僕は疑問をいだきながら姉さまにばれないようそっと近づいた。


姉さまはいつもいじめまがいのことをしてくるけど、僕はもう…気にしないことにした。


多分、僕のことが嫌いなんだろうな。今に始まったことじゃないんだろうけど。






…それより、姉さまの前にいるのは…白猫の「シロ」じゃないか…!シロがどうして姉さまのところに…?まさか、あの小屋を抜けだしてきたんじゃ…。




シロというのは僕がこっそりと飼っている猫の名前だ。


いつもはちょっと離れた場所にある小屋に入ってるはずなんだけど…今日は出てきてしまったみたいだった。


姉さまのことだから見知らぬ猫を見たら僕が飼ってるのを疑われるんだろうなぁ…。間違ってはないけどやっぱり…姉さまってそう人だから。




姉さまはシロをまじまじと見つめていた。


何かあるのだろうか。すると、姉さまはシロの首を撫で始める。


…どうしてお母様に言おうとしないのだろう。お母様に言えば僕はきっと叱られてしまうんだろうけど。言うどころか首まで撫でてシロは気持ちよさそうに目を細めてるし。


姉さまはそういう人間じゃなかったはずなのに。


あんなに愛おしそうに見つめるあの目は一度も見たことがなかった。


どんな気の変わりよう?だなんて言いたくても言えないけど。




…あ、姉さまもしかしたら猫好きだったのかも。


それだったら気が合う………なんて思いもしないから僕は。姉さまには一生だって嫌いになってやるんだから。




…シロ、姉さまにすり寄ってる。

しろってあんなにも人懐っこい猫だったおぼえないのに……。もしや姉さまのことが…?

い、いや…それはなくていい。シロは僕の大事な猫なんだ。

いつも僕をいじめている姉さまなんかになつくわけがない。きっと何かやったんだ。

シロがなついてしまうような何か。

じゃないとあんなに人によって行かないよ。




……シロが姉さまに抱きしめられている…!


やっぱりおかしい。シロに何があったの……!?

そしてしばらく姉さまはシロを抱きしめた後シロを離す。


「もう…いいかな。また会おうね~白猫ちゃん。私の弟もあなたみたいに優しく接してみるわ。」


かすかに聞こえたその声に僕はその場で固まった。

優しく……?あの姉さまが?信じられない。

たったネコ一匹で改心するわけないじゃないか。






「……姉さま?」


あの白猫ちゃんとじゃれあった後戻ろうとすると弟と鉢合わせするような形で出くわした。


「……どうしたの?こんなところで……。まさかあれも聞いて……!!何をしているの……!?聞かなかったことにするのよ?いい!?……あ。」


いつもの感覚で私はまたひどいことを言ってしまいそうになりとっさに口をつぐむ。


「……ひどいことを言ってしまったわ。それと……、いつもごめんなさい。私はあなたのことがなんとなく気に食わなくていじめてしまっていた。ずっとひどいことを言い続けてきたわ。許しを得たいわけじゃないの。でも……反省、してるわ。だから許さなくてもいいから、普通に接してほしい。わがままでごめんなさい……。」


私はいつもの態度と変わり深く頭を下げた。


いつもはこんなことしないけど、私は私で改心したのだ。




すると弟はペコっと頭を下げて「ありがとうございます」といった後早足で立ち去った。




流石に好きなだけいじめておいて普通に接してほしいは無理があったわね。……いくら何でも度が過ぎてしまっていたかしら。




そんな不安もあったが私がいじめなくなったからか、弟は普通に接してくれるようになった。


嫌いだった弟に興味を示さなかったからかあんなわがままを聞いてくれるような優しい子だったなんて知らなかった。








……姉さまがあんなことを言うなんて……!やっぱり何もかもおかしいんだ。姉さまがあんなに頭を下げて謝るわけがない!で、でもあの声音は本当っぽかった。


反省……しているの?本当に?

なんなんだほんとに……。おかしいよやっぱり!

姉さまがあんなこと言うわけが……!




……はぁ。


しばらく、様子を見てみよう。


しばらく考え続けた後このことは後回しにすることにした。




……よくわからない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白猫と悪役令嬢さん 天霧 音優 @amaneko_0410

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ