20話 茶漬中毒

「あちらのお客様からです」


 バーカウンターの上を、茶碗が滑ってきた。僕の目の前で停止したその茶碗の中には、アツアツのお茶漬け。店員が示した方向を見ると、カウンター席の左端で老人が背中を丸めて座っていた。


 彼が、このお茶漬けを……?


「爺さん。悪いけど、お茶漬けを食べたい気分じゃないんだ」


 だが、老人は応じない。酔っているのか、ボンヤリした表情でこちらを見つめている。その眼の瞳孔には、うっすらと青い光が宿っていた。


 青。

 青。青。青。

 青青青青青。


 改めてお茶漬けを見ると、茶碗を満たすお茶も米も、海底を想起させる濃い青色に変色している。脳内をかき混ぜられるような、異様な香り。


 ……綺麗だ。

 食べてしまいたいくらい。


 我慢できず、お茶漬けを啜る――ずるズる、むシャムしゃ、モぐもグ。頭がぼーっとする。でも、止まらない。止マラナイ。お替ワリをもらおウ。


 茶碗を受け取った僕は、それを隣の誰かに向けて滑らせた。

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