21話 米どころ、茶漬けの祟り

 妻と、新潟へ旅行に行ったときの話だ。


 夕食のお茶漬け、美味かったなぁ――なんて暢気のんきなことを考えながら部屋で休んでいると、妙な倦怠感に襲われた。体が急激に重くなり、自由が利かない。


 頭をよぎるのは、噂に聞く「米の祟り」のこと。


 大昔、この地域には、米を買い占めた大食漢がいたそうだ。彼は米という米をすべて食い散らかし、地域一帯に一時的な飢餓をもたらした。


 それを見かねた豊穣の神様が、彼を大岩に変えてしまったらしい。以来、米を独り占めした者は祟られてしまう、という噂が語られているのだ。


 ……しまった。


 嫌な汗が噴き出す。


 食い意地を張って、妻が残した分のお茶漬けまで食べるべきではなかった。僕も、岩にされてしまうのかもしれない……最後の晩餐がお茶漬けになるとは、思いもしなかった。


 せめて妻に、妻に最後の言葉を……。


「ユウコ、僕はもう駄目みたいだ。体が動かない……きっと、豊穣の神様の呪いなんだ」

「いや、ただの食べ過ぎでしょ。胃腸薬飲みなさい」


 ……まあ、そうだよね。


 米どころのお茶漬け、恐ろしや。

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