17話 茶漬湖の底へ

 香り立つ緑色の水上を、海苔ボートで滑る。バランスを崩せばアツアツの茶しぶきを浴び、たちまち火傷を負ってしまうので、気を付けなければならない。


 ここは茶漬湖。


 湖底にはご飯が沈み、周囲には湯気が立っている。地域によっては、お茶の量が少なく、ご飯が氷山のように湖上に飛び出ていることもあるらしいが、ここの水深は深い。気を抜いて落下すれば、二度と帰っては来れないだろう。


 ここを底なし沼と呼ぶ者もいる。


 地獄、と呼ぶ者も。


 だが、それを承知の上で、やり遂げなければならないことがある――白米。湖底の白米。その中に眠るお宝を探し出し、引き上げることが目的だ。困難な試練であることは分かっていたので、きちんと準備はしてきた。採掘スプーン、掘削フォーク、爪楊枝ピッケル……等々。これだけ揃っていれば、あの巨大な米の塊にも立ち向かうことが出来るだろう。


 伝説の宝、梅干し。


 必ず持って帰らなければ。

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