8話 ふわふわする覚悟

 溶けたザラメの甘い匂いが、強烈に俺の鼻腔を刺激してくる。最近のバイキングには綿あめ機が設置されているのか……俺が子供の頃には、綿あめを自分で作る機会なんて無かったなぁ。


 いいなぁ、あれ。


 楽しそう。


(……やってみてぇ)


 だが、40代の男が綿あめ機の前ではしゃいでいたら、周りはどう思うだろうか? 


 デザートコーナーには、親子連れの客がいる。女子高生のグループ客もいる。楽しそうにワッフルを焼くカップル客もいる。それに、一緒に来ている友人たちから、冷ややかな視線を向けられるかも……「餃子とザーサイを生ビールで流し込むおじさんが綿あめなんて」――と。


 しかし、綿あめ機はすぐそこにあるのだ。割り箸を手に、ワクワクしながら順番を待つ子供たち……彼らのあとに続く勇気が、俺にはあるだろうか?


 バイキング終了時間まで、残りわずか。


 そろそろ覚悟を決めなくてはならない――童心に返る覚悟を。

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