4話 絶対に離すな!

「いいか!絶対に離すんじゃないぞ!少したりとも気を抜くなよ!」

「し、しかし隊長――これは重過ぎます!それに、辛い……」

「泣き言を言うな!万が一せき止められなければ、我々の威厳と誇りは失墜すると思え!」


 かつてないほどの激流によって、ダムは決壊寸前だった。もしも流れ出てしまえば、甚大な被害を受けることになる。


「ここまでなんとか耐えてきただろう!あと数分――いや、あと数十秒でいい!耐えるんだ!」

「も、もう限界です!苦しい……」

「駄目だ!離すな!」


 その時――ぐらり、と。


 小さな揺れが隊員たちを襲った。


「……よし、もういい」

「え?」

「もういいんだ――離せ。放せ!もう、放してやるんだ!」

「は、はい!」

 

 次の瞬間、男の涙腺は崩壊した。


 娘にも妻にも見せられない、『男泣き』だった。


 男はゆっくりと席を立つ――娘と、そのパートナーの新しい門出を、心の底から祝いながら。

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