⑥【明日】
俺達が“創造主”に会い、対話するために必要な物。
「三つ目はどんなものか見当がつかないな」
「そもそも言語が存在しないからのう。“創造主”とは脳波、つまりテレパシーみたいなもので会話するのじゃ」
「お前、たらし込んだ時はどうやって会話したんだ?」
「最初は身振り手振りで、スキンシップとボディランゲージで最後はベッドの中じゃのう。篭絡したら向こうから脳波で語りかけて来たのじゃよ」
……聞いた俺が馬鹿だった。
「最低ですわ」
「最低っスね」
「はあ、これの血が私の中にあるなんて……」
「とりあえず目的はわかった。その三つを探し出せばいいんだな」
このままカドミにしゃべらせていたら話がまとまらん。さっさと決めてサクサクと行動に移したいんだ、俺は。こんなバカげた運命なんて早く終わらせないとな。
「じゃあ、私はどれ探そうか?」
「ちょっと待て。探しに行くのは俺だけでいい。こんな事に皆を巻き込むわけにはいかないって」
せっかくの申し出だけど、今まで以上の苦労が想定されるんだ。何年かかるかわからないし。
「セイラには財団と、エヴァンジェル家との折衝を任せたいんだ」
「え~……
「こいつ言うな!」
「一年くらいしたら、俺の代わりに一発殴っておいてくれ。山南を倒したあのパンチでさ」
カドミのヤツ、視線をそらせやがった。廃墟に戻ってからの第一声、みんなして“あの酷い動画”の事で散々カドミを
「あ、そういえばセイラさ」
「ん?」
「録音っていつの間にしていたんだ?」
「あ~、あれね……」
ニコッと笑い、腰に手をあてながら背を向けるセイラ。あれ……いつかこんな場面あった様な?
「撮ってないよ」
「……はい?」
「いや~、交渉材料になるかな~と思って」
「ちょ、お前、あれフェイクか!?」
マジかよ……ニセの映像に音の入ってない音声データ。そしたらあの場で俺達は何ひとつ本物の証拠を持っていなかったって事じゃねぇか。笑い事じゃないっての。
「だからキョウちゃんが『聞かせてやろうか?』って言った時、冷や汗凄かったんだから……」
「俺、そのデータが本物だと思ったから、思い切ったハッタリをかけたのに……」
「だって映像用意しているなんて聞いてなかったもの」
確かに言っていなかったけど……。ヤバイ、なんか今になって変な汗が噴き出て来た。パティがいなかったら勝ち目なかったんじゃねぇか。
「それよりさ、提言書になんて書いたの?」
「ああ、あれね……」
従者が目を通しただけで終わらせず、王の手元に行くまでの細工。
「一行目にさ『山南敬助がお前を後ろから狙っている』って書いておいたんだ」
「……悪趣味ねぇ」
賭けではあった。従者が山南を知らなかったらその時点でアウトだ。しかし、山南兄は四百人もの兵士を動かせる立場にいる以上、国の中でもそれなりの位置にいるはず。その弟という事なら従者でも知っている可能性はかなり高かった。
そこに俺が一言「他国も知っている」と付け加えた。それによって山南敬助が敵に付き、他の国々がこの事態を認識していると想像する。あとは挙動不審に陥った従者を見た王が、興味を示したって流れだ。
「なあ、レオンはこれからどうするんだ?」
「自分は一度村に戻ってから修行のやり直しっスね」
「やり直しって、お前この中で一番強いじゃないか」
「いえ、まだまだっス。次はちゃんと守れるように……」
「誰を?」
顏を真っ赤にするレオン。この辺り、まだまだ少年だと感じさせる。
「……」
「顏赤いぞ~」
「セイラさん、やめて下さいっス……」
「あら、待ってますわよ」
ニコっと笑いながらのこの一言で、いきなり有頂天になるレオン。パティ、やはり悪女の素質アリだ。
「パティは?」
「わたくしは、わたくしなりのやり方で
何か考えがあるみたいだけど、今は聞かないでおこう。こんな、楽しそうな笑顔で言われたら次合う時の楽しみにしておきたくなる。
騒動の起因となったタクマの存在は、今回の一件で各国が知る事になった。その為、今後独占しようとする者が現れない様にと皆で方策を出し合い、最終的な落としどころが財団設立。
技術開発に協力すると確約し、各国から選抜した技術者で集め、エネルギー研究を行う事になった。施設そのものはここ、廃墟に新たに建てられる。魔力が噴き出している事が一番の要因だが、医療施設も併設されるため、シルベスタの治療も行える。本人は『涙が出てきますぜ』と言っていた。彼には、時間がかかってもしっかり身体を直して欲しい。
すでにアメリカには何台ものバイクが実装され、魔力を持つ転生者は自給自足の道が示され始めた。だからこの研究は主にローカルズに対しての課題だ。とは言えここまで来ていれば、インフラ設備の充実までそう時間はかからないだろう。
転生者が現れ始めて約八十年。様々な技術が流れ込み、この世界の文化と融合し、独自の進歩を続けて来た。それらも今後は、魔力を元にしたエネルギー技術の発展にシフトしていく事だろう。
「あ、でもこの先魔力が重要って事になると……」
「なると?」
「おい、地鶏の村だ。あの魔力交流点付近の土地買っておかねぇ? 一攫千金だぜ?」
……みんなが白い目で見るんです。村おこしの為に手を付けるなと言われました。
「それでさ……タクマを誰かに預かっていて欲しいんだけど」
「お? キョウジ、ワイを売りに出すのか? 人身売買なんか? 石やけど!!」
俺はまた冒険に出る。
「タッ君はキョウちゃんと一緒にいるのがいいと思うよ」
「そうですわね。迷コンビですもの」
「切り離したら駄目っスよね」
「キョウジ、連れていけ。ここに置いて行かれてもワシは迷惑じゃ」
……身も蓋もねぇな。
「そうか。ならまた二人……じゃなくて一人と一石の旅か」
「そこ、言い直さんでええんやで!」
このやりとりがまた続くと思うとちょっとだけ頭が痛くなるが……
「それじゃ、行くとするか」
「あら、もう出ちゃうの?」
「ああ、のんびりしている暇はないからな。セイラ、ちゃんとひい爺見ておけよ」
「こら、ワシを年寄り扱いするでない!」
「はいはい。腹パンもしとくから」
底がすり減ったシューズの紐を結び直し
「レオン、レベッカ師匠によろしく伝えといてくれ」
「了解っス。たまには顏出しに来てください」
穴の開きかけたバックパックを背負い
「パティ、山南には気を付けろよ」
「大丈夫ですわ。カドミさんが今作っている
「また俺の金で作ってんのか。ったく、今度は“何型”なんだよ……」
笑いながら立ち上がり、バイクにまたがる。
……皆、しばしの別れだ。
「じゃあな、また会おうぜ!!!」
「……お? 新型の話聞きたいか? キョウジ」
カドミが嬉々として割り込んで来た。いや、もういいって。爽やかに別れは済ませたんだよ。
「いや、いい。悪い予感しかしねえ」
「まあ、そういうなって。今度のやつはじゃな…………」
「なんや、ホンマにそれでいくんか?」
マジか。……勘弁してくれ。
stillAlive 完
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