アリウム
@kankankitukitu
アリウム
「やあ、いらっしゃい」
紫色の少女が目に入った。
「誰?」
無意識にそんなことを言った。頭がふわふわとして、考えがまとまらない。
「私は神だよ」
神。その単語をゆっくりと反芻する。
すると、脳が機能し始めた。
白い、ただただ白い距離感の掴めない空間。神と名乗った少女は、俺の目線に合わせて浮いていた。
「色々疑問があるよね————
◇
神は異世界で人類の敵とやらを討って欲しいらしい。
俺がその役目に選ばれた理由は「都合が良いから」らしい。らしいらしいと正直怪しいと思うが、ファンタジー世界を楽しめるのならば気にすることではない。
そうして俺は今、森の中にいる。しかし、武器も持たず森にいたら人類の——
がさがさと草木が擦れ合う音が聞こえる。生き物の気配。逃げるか、隠れるか。焦る。焦る、焦る。どうすれば——
「え?」
「え?」
闖入者と目が合う。赤い眼に赤い髪の少女。
これが、この世界での初めての出会いであった。
アセロラと名乗った少女に事情はうまく伏せつつ近くの集落に行きたいという旨を伝えると、あっさり了承してくれた。警戒されないあたり俺みたいな奴は多いのかもしれない。
アセロラに集落について聞き、どうするかを考えながら森を進む。この森にはあまり動物がいないらしく、安全な道のりだった。
……件の集落が見えてきた。瞬間。
果物が爆発したような破裂音とも打撃音とも形容できない軽快な音。
何も理解できないまま目に入ったのは…………。
入ったのは……首の離れたアセロラだった。
絶叫。現れた人類の敵——馬鹿でかい蜘蛛——は俺のことなど気にも止めず、手に入れたものを吸っていた。赤い、紅い、アカイアカイアカイ、それを。
俺は死んだ。
◇
白。またあの場所だ。
「君に、話さなければいけないことがある」
神は言った。
「君には無限のチャンスがある。分かるかい?君は死んだらここに戻って来る。そうして、君が死んだ直後の世界にまた出現できるんだ」
神は言った。
「そしてもう一つ。君は死ぬたび業が深まる。それが深まるたび、君は強くなる」
神は言った。
「疲れたらここで休めばいい。何度でも何度でも人類の敵を討っておくれ」
◇
ウィルは食われた。俺は死んだ。
…………。
サンは四肢を削がれた。俺は死んだ。
…………。
アンは庇った。俺は死んだ。
…………。
トーラは裏切った。俺は死んだ。
死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ………………………………。
信じるのはやめた。
頼るのはやめた。
寄り掛かるのはやめた。
馴れ合うのはやめた。
◇
また、死んだ。
白い空間。ふと、今更だが思った。
何故、ここまで続けてきたのだろうか。
辛い。怖い痛い。
思った瞬間に、どうすればいいか分かった。
茎を少し締める。ただそうしているだけで、花は散った。
微笑んでいる肉と骨と紫。
なんだ、神だって人間じゃないか。
「お前、死にたかったんだな」
アリウム @kankankitukitu
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