銀河を見たいと思った

柴田 恭太朗

1話完結

 夜中にせんべいをかじったら歯が欠けた。欠けた歯は放っておけば自然に治る……なんて話はあまり聞かない。いや絶対にない。治療するなら早い方がよかろうと翌日イトコがやっている歯科を訪ねた。


 歯科の診療室はなぜか温泉のニオイがした。不思議に思いながら歯科用椅子に腰かけるとアニメ声の看護師に目隠しされる。なぜ目隠しをされるのかわからない。いつものことだ。看護師に向かってイトコが「面白いから見てご覧」と言うのが聞こえてくる。


 フィィィーン。おぞましい歯医者の音楽が始まった。

 歯にドリルが当たる感触と焦げた硫黄のニオイ。ああこれが温泉臭の元だなと思った。そしてそれは黄色い硫黄の結晶を想起させる。


「ほらキレイだろう?」とイトコの声。

 目隠しをされているので何がどうキレイなのかわからない。

「わあ素敵。銀河みたい」看護師が黄色い歓声をあげる。


 なんだろう銀河って。口の中に銀河が見えるのか。それならぜひ見てみたい。でも目隠しが邪魔で見えない。口にドリルとサクションチューブが入っているから声も出せない。


 もどかしい思いのまま歯は削られていく。

 ドリルの先端がジジっと神経に触れた。


 目の奥に無数の星が飛び散り銀河が渦を巻いた。

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銀河を見たいと思った 柴田 恭太朗 @sofia_2020

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