第3話 プレゼント
僕は由香子との手紙のやりとりを通して、次第にお互いの気持ちを共有するようになっていった。僕たちがやりとりを初めて三か月が過ぎたある日、由香子から届いた手紙を読むと、そこには便せんにびっしりと文字が埋め尽くされていた。その枚数も、三、四枚にも及んでいた。
『学校の勉強も楽しいし、ピアノの演奏会では友達から大きな花束をもらってうれしかったし、日々充実しています。でも、どこか不安に思う自分がいるんです。今の勉強で目指してる大学に受かるのか?そもそも自分は大人になったら何をやりたいのか?悩むことがいっぱいです。
友達に話そうにもなかなか話せなくて。だから、自分であれこれ調べたり、親に相談はしているんだけど……。純平さんはどうしてますか?毎日漠然と勉強をやってて不安に思わないですか?』
彼女の文章からは、悩みに満ちた中必死に思いを綴り、訴えようとしているのが読み取れた。僕は、彼女から悩みごとをストレートに訴えられ、しばらくの間どう答えたらよいのか考え込んでしまった。手紙の向こう側で真剣に悩んでいる由香子の姿を想像すると、いてもたってもいられなかったのだ。
そして、ようやく自分なりに導き出した答えを、手紙にしたためた。
『由香子さん、こんにちは。そうですね、僕もなんで勉強しているのか自分でもわからないことがあります。夢も入りたい大学もあるけれど、漠然として、勉強しても張り合いがなく先が見えないと思うことがあります。それでも、漠然とでもこれがやりたい、と思うことを実現するために、今出来ることを精一杯やろうと考えています。由香子さんの気持ちはよくわかります。また何か悩んだら、僕で良ければお話しくださいね』
その数週間後、由香子から返信が来た。
僕は、前回返事を投函した後、あの答え方でよかったのだろうか?と自問自答を繰り返していた。果たして彼女からどんな答えが返ってくるのか、僕は心臓が高鳴った。
『こんにちは、純平さん。私の話を聞いてくれてありがとうございます。すごくうれしかった。今やっていることにいまいち自信を持てないでいましたが、純平さんの言葉を胸に、まだまだ前を向いてやってみようと思いました。純平さんも、悩んでることがあれば私に言ってくださいね』
由香子の手紙を見て、僕は思わず片手を握りしめた。
彼女の気持ちに寄り添えたこと、そして「うれしかった」の一言。
天にも昇る気持ちだった。
その後も由香子は、僕に様々な相談をしてきた。
昔好きだった人のこと。学校のこと。そして自分自身の考え方や価値観について。
僕はそのたびに、それが的確なのかは自信が無いものの、推敲を重ねて何とかひねりだしたアドバイスを返信した。
それから僕たちは月に一、二度のペースで手紙のやりとりを続け、年を越しても延々と続いていた。
二月になり、バレンタインデーを迎えると、同級生の間ではクラスの中で誰がチョコレートをもらったかが大きな話題になった。案の定誰からもチョコレートをもらえず、同級生の話題の中に名前も出ずに落胆しながら帰ってきた僕に、母親が宅配便のシールの付いた大きな箱を手渡した。
「何だろうね、こんなに大きな箱……純平宛になってるんだけど」
「え?何だこれ?」
僕は箱を取ると、そこには由香子の住所と名前が入っていた。
僕は驚き、箱を開封した。
そこには、箱にぎっしりと様々な種類のクッキーが詰められていた。
そして、一通の手紙が入っていた。
『純平さん、happy valentain! 今まで私の相談に乗ってくれて、本当にありがとう。少ないけれど、クッキーを焼いてみました。もしよかったら食べてください』
僕は手紙を読み、本当に自分宛てなのかと思ってもう一度宅配便の宛名を確認したが、やはり僕の名前で間違いなかった。僕はどう反応していいか分からなかったが。すごくうれしいという気持ちに間違いはなかった。
その時僕の中に、とある感情が生まれてきた。
由香子に会ってみたい。ここまで僕に思いを寄せてくれているのであれば、会ってもうまく付き合えるのではないのか?僕は徐々に確信を持ち始めた。
数週間後、僕の手元に由香子からの手紙が届いた。
そこに書いてあったことは、まるで僕の気持ちを読み切ったようなことが書いてあった。
『もうすぐ春休みですね。ねえ、純平さん。純平さんが良ければの話ですが……ぜひ一度会いたいです。ちょっと遠いかもしれませんけど、東京まで来れますか?東北からこちらに来るならば、上野駅で下車するんですよね?上野で会いましょうか。桜がキレイな時期だから、一緒に上野公園でも散歩しましょう』
僕は思わず胸元で軽くガッツポーズをした。
彼女もきっと、僕とならうまく付き合えるという確信があるに違いない。
僕は迷うことなく、由香子に会いにいくことを決意した。
『ありがとう。それでは今度の春休み、上京しますね。由香子さんと直接会って、色んなことを話したいです』
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