&α2

 そして、戻ってくる。


「いま来るって。わたしの端末の位置情報で」


「ああ。部屋に行こうか」


「ううん。ここで待つ。来なかったら迎えに行かないと」


『その必要はないよ』


「あ?」


「ん?」


「あ、いやすまん。今度は俺だ。服を」


 外に出る。


「なんだ。俺はもう」


『死んだか。生きてるじゃん。彼女と一緒になる決意で記憶取り戻したか?』


「おい。なんで知ってる」


『わたしだし』


「は?」


『わたしだよ。わたし。歩待恭可さんを狙ってるのは、わたし。っていうか違うな。前提が違うわ』


「わからん。いやおまえ、女?」


『女だよ?』


「うそだろ」


『待ってろいま向かってっから。わたしはね。ふたりのことが好きなんだ』


「は?」


『ふたりが一緒にいて、その間にわたしは挟まりたい。歩待恭可と塘長近の、結婚指輪に。わたしはなりたい』


「いや、わけが」


『だまれっ。わたしがどんな気持ちで過ごしてきたか、わかんのかお前に。好きなひとがふたりいるっていう、そういうなんか世間的にゆるされないもののせいで、どんなにくるしんだことか』


「浮気性なだけじゃねえか」


『おいてめえ身体洗って待ってろよ。ぼごぼこにしてやる』


「身体洗っていいんだな?」


『あっ待ってやっぱり洗わないで待ってて』


 車に、戻る。









「俺の知人だった」


「ん?」


「いまから来るやつが。俺の知ってるやつだった。顔は知らないけど」


「なんか、そんな気がした」


「そっか」


「お部屋、入っていい?」


「ああ。行くか」


 ふたりで。

 車を出る。






「風呂は入らないで待っていてほしいそうだ」


「そうなんだ」


 ふたりで。

 思っていることは、同じ。


「よし。めちゃくちゃ身体」


「綺麗にしましょう」


 部屋に入って。


「あいつのくやしがる顔が楽しみだ」


 浴室に。


「あら。大きなお風呂」


「あわあわになる機能もあるぞ。で、これがタオル」


「ありがと」


 彼女が、来ただろうか。

 浴室の窓の外で、バックライトが点滅している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ランデヴー・バックライト 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る