第2話

 車を出た。同時に、通信。


「俺だ」


『どこ行ってたんだ。こっちはそろそろ限界なのに』


「すまんな。死地に赴くには、まずそれなりの準備が必要でな」


 彼女の車に、手を降る。スモークで、中の様子は見えない。彼女はまだ眠っているはず。つかれているだろうし。


「さて。死にに行くか」


 そういう任務だから、しかたない。


『準備はできてんだろ?』


「まあな。俺一人死んだところで」


 誰も悲しまない。

 いや。

 彼女は、寂しがるだろうか。

 歩待ほのまち恭可きょうか

 32歳。

 両脇の少し下のところ、胸部との付け根の、境の部分が弱点。

 同僚の女に言い寄られていて、無下に断ることもできず宙空を掴むような毎日。普通の生活。普通の部屋。

 しかし車だけは凝っていて、とにかくありとあらゆる機能を車に詰めこむ。そして、自分とも車のなかで絡む。


『なに考えてた?』


「走馬燈」


 自分は彼女のことを知っているけど、彼女は、俺のことを何も知らない。正義の味方なんて言ってみても、ちょっとほほえまれるだけ。


『おいおい。死ぬのはいいが、ちゃんと生きて帰ってこいよ?』


「なんだそれ」


 正義の味方なので、保身など無い。目の前の任務に、ただまっすぐ突っ込んでいくだけ。


「あ」


 車内にアンダーウェア忘れた。


「まあ、いいか」


 もう、逢えないかもしれないのに。不思議と、次の機会でいいかと思ってしまう自分がいる。


「さて」


 行くか。

 もう、雨は上がっている。


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