ランデヴー・バックライト

春嵐

第1話

 車内。

 何もない。

 ステアリングに、もたれかかる。革の匂い。


「うああ。雨だ雨だ」


 彼が、車内に飛び込んでくる。ドアの音。ばんっ。


「雨降ってきたね」


「そっか」


 気付かなかった。


「浮かない顔だな」


「そんなこともないよ」


 こうやって、逢瀬を重ねる。それが、いつまで続くのか。どうしても、終わりになることを、考えてしまう。

 互いに、連絡先も知らない。

 名前も。

 声と顔と身体だけが、唯一の鍵。


「スモークガラス。新調したんだ?」


「うん」


 あなたが車のなかでなんでもするから、遮光性がめちゃくちゃ良いものに換えた。

 というのもたぶん言いわけで。結局、あなたのことを誰にも知られたくないという、変な独占欲がはたらいただけ。それだけ。


「外、見れないね」


 残念そうにしている彼に。プレゼント。ミラーボタン。これも新調した。


「わっ」


 彼が急いで服を着ようとする。


「外からは見えないよ」


「うそうそ」


「ほら、ドラマとかの取調室でよくあるでしょ。向こうからは見えないやつ」


 マジックミラー。


「へえ。でもなんかはずかしいな」


 服を着ようとする彼を、遮る。


「服、濡れてるでしょ」


 着なくていいよ。わたしの前では。

 なんて、そんなかっこいいこと言えないので。


「車のエアコンで乾かすから」


 これは前からある。ふたりで絡んでいる間は暑かったり寒かったりするので、かなり本格的なやつ。温度検知と設定温度順守。そして除湿加湿。


「ありがと」


 近付いてきた彼の顔が、引っ込む。寂しい唇。


「あの」


「はい」


「ガラス。スモークかけてほしい」


「はずかしがりか?」


「そう言わないでよ。何も着てないんだよ」


 このガラスは、どう設定しても外側から見えないようにしてある。と、説明しても無駄そうだった。ボタン。スモークがかかって、車内照明に換わる。そして、彼。

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