第五陣 (4)
「叶うか叶わないかの話じゃないのよ。たとえ身分違いだろうが、いずれお姫様が他の男と結婚しようが、誰を好きになろうが、何をしようが、それでも想いが変わらない自信があるのなら、最後まで想い抜きなさいよ!」
瑠衣の言葉は、一節ごとに深々と突き刺さった。
瑠璃がいずれ他の男と結ばれても。
自分以外の男を想っていたとしても。
それでも、想いは変わらないだろう。
その程度で想いを忘れてしまえるなら、もうとっくに切をつけていたはずだ。
「あなたの想いは、他に恥じなきゃいけないような想いなの? お姫様を想う自分自身を、あなた自身はどう思ってるの?」
「私、自身を……?」
止めを刺されたような気がした。
身分の差や、互いの立場。
それらにばかり気を取られていたかもしれない。
不遜であることに違いはないが、決して邪な想いではない。
「もしあなたが、お姫様に想いを寄せる自分を恥じるのなら、それこそお姫様が可哀想だと思うわ」
「――――」
瑠衣の言葉に、何も言い返すことが出来なかった。
不意に流れた沈黙のあとに、亮助がゴホンとわざとらしく咳払いをする。
「っつか、すげー偉そうに言ってるけど、姉ちゃん恋愛したことあんのかよ……」
冷静な突っ込みを入れる亮助の目はとても白い。
実に冷ややかな目だ。
「それにさー。なーんかオレ、銃太郎さんと木村先輩が被って見えてきたわ」
「りょ、亮助、それは流石にやめてくれ。私が可哀想だ……」
「だって被るじゃん。木村先輩は姉ちゃんにべったべたに惚れてるけど、さっぱり相手にされてないし? 銃太郎さんも似たようなもんじゃん」
「!?」
いや、分かってはいた。
確かに、あの木村鳴海とやらに、自分は似ているのだ。
しかし、それを亮助にまで指摘されると、遣る瀬無さが無尽蔵に溢れてくる。
「けど、銃太郎さんと木村先輩じゃ、違うところもあるよな」
続けざまに、亮助は何気ない声音でさらりと言う。
「そ、そうか……。例えば?」
「うーん、そうだなー……」
古い家屋のやや低い天井を見上げ、亮助は唸る。
「木村先輩は、姉ちゃん振り向かそうとして苦しんでるけど……、銃太郎さんは違うよな」
「?」
「なんつーか、諦めることに苦しんでる感じ」
思いつくまま声に乗せた亮助は、言いながら確信を得たかのように、頷きながら喋る。
ついでに瑠衣まで深々と頷いた。
「そもそもさー、姉ちゃんもそこまで偉そうに言うんだったら、先に木村先輩を何とかしてやれよ」
「は? 何よそれ、さっさと鳴海を埋めろってこと?」
「いや違ぇし……。あんまり過ぎんだろ、それ」
瑠衣の鳴海に対する態度は、頑として変わらないらしい。
改めて不憫な奴だと思う。
まあ、二人から見れば、自分も木村鳴海と五分を張る不憫さなのだろうが。
「ていうか、なんで俺ら恋バナしてんだよ……。違うだろ、銃太郎さんの今後について話するんじゃなかったのかよ」
「……それもそうよねー」
ぐだぐだだ。
話があるから、と言ってここまで押しかけてきたくせに。
銃太郎がげんなりと無言の溜め息を吐けば、瑠衣は居住まいを正す。
「私も昨日、徹夜で本を漁ったけど、解決の糸口になりそうな情報はなかったのよね」
そこで、と瑠衣はにっこり微笑む。
「あなたに縁のある場所を片っぱしから歩き回ってみる、っていうのはどう?」
「私に縁のある――?」
「まっじかよ……。オレそういうのダルいんだけど……」
「とにかく思いつく限りの場所を徹底的に回ってみれば、何か手掛かりが掴めるかもしれないでしょ!」
「いや、しかし瑠衣殿……」
「お黙り! 郷に入っては瑠衣に従えって言うでしょ!?」
「姉ちゃん、オレバカだけど、さすがにそんな諺聞いたことねーよ……」
「決まりね。明日は朝から郷土史研究部大集合よ!」
瑠衣は一切を無視して高らかに宣言し、明日には早速、土地巡りを断行する運びとなったのであった。
【第六陣へ続く】
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