第二話  恥ずかしい

 朝のホームルーム前。チャイムの鳴る五分前に登校してきた私の肩が叩かれる。

 振り向くと、友達である津付蓋丹生が立っていた。


 「美夜、昨日は大丈夫だった?」

 「昨日?」

 「部活のこと。文化部に興味があるって言ってたけど、、」


 心配六割、好奇心四割といった感じで聞いてくる丹生。

 そういや、まだ言ってなかったと口を開いたところで、私は固まった。


ーー昨日のことって言わない方がいいよね?


 一つの疑問。決して口止めされていると言うわけではないが何故だろう、丹生に、いや他の誰にも打ち明ける気が湧いてこない。


 結局、この日の私は誤魔化すことにした。


 「昨日は仮入部届けを出してきただけ。今日から行ってくる」

 「放送部…。あそこからはあんまいい噂聞かないけど、安全なの?」

 「全然平気。、ね」


 あの活動の何が平気なのか苦笑いするが、丹生の不安そうな表情は消えない。


 それはそうだろう。なにせこの学校の文化部はどこか陰湿な雰囲気を纏っており、活動実績も儘ならない。高三生でも文化部についてまともに知らない人間も居る。

 そんな文化部で唯一知られている放送部。一線を風靡するとはいえ、生徒たちの中では気味の悪い噂で持ちきりだった。


ーー入部してないしね。どっちみちまだ詳しく話す必要はない、かな。


 私は一度話題を掻き消すために、丹生に他の話を振った。


 「丹生の方は、サッカー部のマネージャーどうなったの?」

 「私? 入部したよ」

 「体験行ったの昨日じゃなかったっけ?」

 

 私が尋ねると、ちっちっと指を動かしながら冷静に告げられる。


 「二ヶ月経ってるからね。このタイミングじゃ入部せざるを得なくてさ。体験行ったタイミングが遅かったのが運のつきかな〜、後悔はしてないけど」

 「そうなんだ」

 「美夜も早く決めた方がいいよ。このタイミングなら運動部のマネージャーなら紹介できるし」


 うーん、と私が悩む。丹生の話はともかく、放送部は今日の活動次第だな、と考えていた。


ーー今日何するか聞かされてないし、昨日の教室行けばいいのかな?


 疑問が出るが、それを丹生が知るはずもなく、キリのいい時間でチャイムが鳴り、それっきり話は終いになった。







         〜〜〜

 






 「はあ、来てしまった」

 

 2階の廊下の先、昨日の活動場所に再び行くとは予想できていたことだが……緊張する。


ーーーまた喧嘩してたりするのかな。


 昨日の発言的に、放送部に所属する生徒は三人だけではないのだろう。新手の人間が迎えてきたりしたらどうしよう。

 勘違いされてたらいやだが、私はあまり人と話してこなかった人間だ。初対面の人とは多少なりとも浮ついた雰囲気になってしまうのは解せない。


 不安を抱えながら教室の前に。ふぅっと一息つき、ノックを行う。


 コンコン、


 ガチャ!


 「やあ、待ってたよ」

 「っ!」


 強く開かれたドアからは見知った顔が現れる。


 竜宮院進斗。

 身長は低いが、黒髪の夜を連想させる瞳を持った少年が真前に飛び込んできた。


 「ち、近いです!」

 「ん、そうかい?」 


 思わず後ろに引いてしまった私の背を彼は軽々と支える。やりたくもないのに、お姫様になった恥ずかしさ。加えて一段と顔が近づいてしまい、私は慌てて逸らすが、彼は平然と言葉を発した。


 「早速だけど、この学校の在り方について説明してもいいかな」

 「こ、この、、状況で、ですか!?」

 「うん」

 「駄目に決まってるでしょ!」


 がツン、とすぐ近くで音がした。

 視線をずらすと女子部員が彼の頭に鉄拳制裁。それも……


 「ソフィア…さん?」

 「久しぶりね、長山さん。それはそうと、あんたはいい加減手を離しなさい」

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