第一話 会話
スプーンにのしかかる牛肉を口に運ぶ。
皿の上には暖かいビーフシチュー、ついさっき電子レンジで加熱したもの。
野菜がたっぷりと含まれてるにも関わらず、肉しか取れなかったことに不満を覚えながら、私はスプーンを近づけ、再び口の中に投入する。
ーー美味しい。…でも、何か足りない。
最大で六人は座れるダイニングテーブル。
けれどそこには私一人しか座っていない。
初めからそうだった。物心ついた時から両親は忙しく、私は無駄に広いリビングで一人食卓に着いている。
いつも私を見てくれないくせに、習い事には口を挟んでくる親たち。
もうピアノはいいだろう、お前はピアニストになるわけじゃないんだから。
絵なんて描けたって将来何も役に立たないだろう、そろそろ潮時じゃないか。
うるさい。私の好きなものを奪うな。私は勉強なんて別に好きでもなんでもない。
適度にこなしていればそれでいいでしょ。どうして、こんなにさせるの。
こんな高校、、行きたくないのに……
ーー…って、昔は泣きじゃくってたけど。今はそんな気すら起こらなくなったな。
テーブルに置いたスマホには、母親からのメール。メッセージは、早く部活に入れという急かす内容だった。
部活………か。
唐突に、脳内にあの台詞が蘇る。
『刺激のある毎日の方が楽しくないかい? 毎日普通に学校に行って宿題をやって家に帰って勉強。一人だけの食卓。そんな日常に、命と隣り合わせの亀裂殺しを入れても表面上は大丈夫でしょ』
竜宮院進斗の言葉。
初対面の時は見惚れたが、かなり危なっかしい生徒だった。あんな命と隣り合わせの部活動だなんてどんな神経してたらいいんだ。
ーー入部したら絶対に後悔する、そう思ってた筈なのに……不思議と魅了された。
あの場での頷きは今も変わらない。んー、でも親になんて言ったらいいか……。
悩みのツボはそこ。放送部なんて、学校の公式アカウントにも載ってない。そもそもあんな亀裂とかいう物騒なのが存在してる時点で色々とヤバいし、……どうするべきなのか私には……、
と、その時。
ピピピピ!!
「え、」
スマホの着信を知らせるアラームが鳴り出した。
ーーもしかして丹生? あの子、電話は事前に言ってからじゃ、、
慌てて手に取り相手を確認。だが驚くことに非登録者、すなわち知らない誰かからだった。
ーー何らかの詐欺?、これ出ない方がいいよね。
無視しようとするも、相手からの通話はなかなか切られない。
色々と苛ついていた私は、やけになり出てしまった。
「もしもし、どちら様ー」
「お、やっと出たね」
「んな!! その声はっ!!」
「そうそう、偉大なる放送部の書記担当、竜宮院進斗だよ」
ーー嘘!? 連絡先なんて教えてないのに!
動揺が悟られたのか、彼は笑い声を響かせ、軽い口調で発音する。
「入部する生徒の情報は知ってて当然でしょ」
「まだ入るって決まったわけじゃ…」
「だとしても。……それに、君については僕が知りたいと思ったから連絡先を調べてもらっただけだしね」
どうやって、と質問する前に答えは返ってきた。
「放送部は一癖二癖ある問題児ばかり。つまりそれは、一つの分野に特化してる異質な奴らってことなんだ。人の個人情報を洗うなんて造作もないんだよ」
楽しげに喋る彼の声色に、私は少々怖気付く。
「怖い……ですね」
「怖い? ………ああそっちか、、…もしかして、自分がそんな場所に入っても何もできないんじゃないかと思ってる?」
私は黙りこくる。そうだ、別に私の事を知られようがどうでもいい。なんとなくだけど、悪用される気がしないからだ。
でも、問題児であろうともそんなエキスパート集団に私が所属出来るとは思えない、だって私は……、
ーー誰かの敷いたレールの上しか歩いてこなかった人間だから。
私と彼の間に沈黙が流れる。長い空白の末、先に切り出したのは彼だった。
「まあいいや。とにかく明日の部活には来てほしい」
「どうしてですか」
「君に、やってもらいたいことがあるから。んじゃ、これにて終了」
プツッと、電話が切られる。
「……はぁ」
突然の電話。一方的な会話劇に今になって笑みが浮かび上がる。
周りを眺めると、テーブルに置かれたシチューにほんの僅か、
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