第12話 真実
「これでひとまず安心、あとは溜め込んだ汚物を消し飛ばせば解決かな」
「何サラリと完結させてるんですか、何が起きたのか説明してください」
顔の化け物が光となり霧散していった後、胸を撫で下ろす先輩に私は思い切り噛み付く。死の危険に怯えたと思いきや突然始まった何これ珍妙期。目の前で起きている状況が何一つ理解できないから足し算やってないのに因数分解やってる気分になる。色々と補足が欲しい。
理解が及ばない私に目がいったのか彼はこちらに振り向くと物思いに耽けていた。
「うーん、うまく説明できないけど、まずは一言わせてほしい。危険な目に遭わせてごめん」
謝罪。
どうせなら助けにきた時に言ってほしかったし、お詫びではなく経緯を必要としている。頭を下げる先輩にそう促すと彼は再び私に視点を合わせた。
「えーと、何が聞きたい?」
ピキッ!!
「先輩から尋ねるということは私に話したくないことがあるからそれらを隠して知られざる真相というのを誤魔化す気なんですね、分かりましたそうですねではー」
「待って待って、違う違うから!! ただ君から聞いてくれた方が説明しやすいかなーって勝手に判断しただけだから、一人で完結させないでよ」
「ブーメラン刺さってますよ、あとツッコミのキャラじゃないですよね」
「分かってるならやらさないで」
先輩がそう言ってふう、とため息をつく。慣れてない感が半端ない。まあでも…
「とりあえず後ろのこれ、匂いが酷いすぎるんでどうにかしてください」
「元からそのつもりだよ」
ーーじゃあとっとと行動に移して。
〜〜〜
「ひとまずそこに座っといて」
先輩は後ろにあった巨体を先ほど同様手を当てながら口を飛ばす。ちなみに言い渡されたのは隅っこにある椅子。移動し終わった私が先輩を見ると、撫でるように触れる右手には、僅かな輝きが灯っている。どういう理屈で紫色のオーラを消し飛ばしてるか知らないけど今は置いといて、
「あの化け物、その巨体は何ですか! あんな生き物見たことありません!」
そう言い放つ。
私の言葉にダルい、めんどいと愚痴を垂れ流していた彼は数秒黙る。しかしすぐに口を開いた。
「生き物じゃないから、亀裂だよ亀裂」
「それですよそれ!! 私を襲ってきた化け物も口にしてました。そんな単語聞いたことありません! 大体、ここに来る前の物騒な話でてっきり学校に蔓延る犯罪者みたいなのと戦うって思ってたんですけど、なんですあれ!! 明らかに心霊的なやつじゃないですか!!!」
「どうでもいいけど君から質問するんだね」
「今は関係ないでしょう!下校時刻までもうすぐだというのに余計な話で事情を取り繕って警察に連行されなければいいとー」
「はいすいませんでした。誠に申し訳ございません」
私が二度目の長文を並べたところで先輩は待ったをかける。はあ、この先輩が来たとき安心したあの時の自分を殴りたい。
「話を戻します。亀裂ってなんですか?」
「特殊な実験によって生まれた人間だったもの。そういや言ってなかったっけ」
「言ってなかったっけ?、じゃないんですよ!! なんですかそれ!」
「君が襲われた顔の化け物のことだったりこの巨体の心臓部分にある一人の青年のことだったりーそれから」
「具体例が欲しいわけじゃないんですよ!! ああ、それとそういう大事なことは部室で言ってください!!」
ーー泣く、いっそ全校生徒の前で指差して泣いてやろうか!新入生にこんな目を遭わせるなんてやっぱこの部活別の意味で一線引いてるよぉ。
情緒がおかしくなる気がする。椅子の上で半べそ状態になる私。そこへ先輩がトーンを一段と下げて話しかけてくる。
「ごめん、本当はもっと詳しく部室で説明するんだ。けど去年色々と揉めたから先に仕事見せちゃおうってことになって…」
「……」
「本来の予定では君に亀裂についての説明をした上で先週から放置していたこの巨体を見せるつもりだったんだ。この部活の活動方針の理解という点でも亀裂の話は必要不可欠。被害の実態をその目で確認してもらった後で説こうとしたんだけどさ。まさか…ね」
「じゃあ顔の化け物のことは…」
「うん、熟知してなかった。……入った時は気づいたんだけどさ」
ん?、ちょっと待て。なんて言った?
「入った段階では分かったんですか?」
「なんとなく嫌なモノがいると察したよ。隣の部屋から尋常じゃないオーラがプンプンと」
「だったらすぐに教えてくださいよ!! 危険だなんだかんだで」
「巨体と力を繋いでるモノだと面倒なんだ、ほらこれ見て」
先輩はそう言って左手で高らかに上げる。先刻の生首の化け物の顎についていた細い管だ。
「この巨体はたった今消した妹の兄弟である兄の亀裂。彼はたくさんの生徒を食い尽くしそれが積りに重なって酷い匂いを放射し続ける馬鹿でかい体を生成する原因になった。で、これは妹と繋いでいた管。彼女はこの管で兄のエネルギーを長い間、吸収していたんだよ。お分かりかな?」
「質問の答えになってません!」
「だからつまり、亀裂っていうのは特殊な実験で生まれたもので五感がすごく弱いんだ。手当たり次第人を襲うからおそらく感情というものがない。けど、亀裂が仲間の力を自身のに蓄えて変換していく場合は例外で、吸収していく過程で五感や記憶を取り戻す。例えばこの管のように」
そして先輩は私を強く眼球で捉えながら
「この教室の話し声は全て完璧に聞こえていた。もし君になんらかのアクションをしたらその時点で襲われたかもしれない。窓ガラス割ることができるから当然と言えば当然でしょ」
次の瞬間、巨体に当てていた右手を管に向ける。すると、今度は2倍近い速さで紫色のオーラが吐き出されるのが目に見えた。
「妹に力を送っていた器官なら効率よく作業できるかな、なんて浅ましい考えだと思ったけど成功したようで何よりだ。あ、この手の原理については後日話すよ」
ーーちょっと待って。つまり、先輩は私の案じていたってこと?
そう考えるといくつか合点がいく箇所がある。変な落書きを探すなんて話をしてた時、彼は隣の部屋の情報を持ち出し歯切れ悪そうしていた。
ーーあの態度には腹が立ったけど…もしかして遠回しに私を帰らせようと持ちかけていた? 私を危険に晒すわけにはいかないから。
どんな言葉も丸聞こえ。そんな相手がいる中で円滑に会話を続行できるはずがない。でも下手すぎでしょ、いくら何でも。
まだまだ疑問はいくつかあった。
「亀裂ってのが五感に弱いなら吸収するなんて高等技術できると思えないんですが」
「実験直後は良くも悪くも人間だからね。そっから数日で落ちていくけど1日ぐらいは時間もあるし五感も生前と大差ないんだ。そんな時、頭のいい人間だったらどうすると思う?」
「……なんとなく分かった気がします」
「そう。…もうそろそろかな」
気がつくと先輩のそばに広がっていた巨体は消えており最後の一欠片を消しとばしていた最中だった。
ーーこれで終わり…ん、ちょっと待って。
巨体を消しとばしたその場所に誰か倒れていた。いや、誰かなんて言葉は合わない。全身がブヨブヨに伸びて人の形を留めていなかったから。眺めている私に先輩が声をかける。
「彼はお兄さん。誰のなのかは分かるだろう」
その一言で理解ができた。
「私を襲った妹の、ですか」
「うん。人を山の如く食べたので原形は残らないと思ったけど、驚いた」
ゆっくりと触れる先輩。何かを悲しむ様子で光の灯る右手は誰がどう見ても絵になっていた。
「お幸せに、山中カンタ」
〜〜〜
「ようやく君の番だね」
「質問は後日って言ったのは先輩ですよ」
「それとは別件でね」
そう言って先輩はうっすらと唇を歪ませる。残忍そうに感じるその表情には不思議なことに明確な負の感情は思い浮かばない。
あえていうならそれは、私が今まで生きてきた中で欲しかった心の情。
「うちの部活は全員一癖二癖ある問題児ばかりでね。不良、ハーフ、ロリ、オタク等々。属性だけだと思春期の高校生が飛びつきそうなのばかり。でもそんな奇々怪界な連中だからこそ、時には危険な場所に飛び込みたくなるんだよ」
「……」
「さあて、名前も素性もわからない美しい白百合の王女様。全てが制限されたレールの上でも飛び込みたくはならないかい、自身の選択で突き進む己の道とやらに」
「人を襲わせといてよくもそんなー」
「だからだよ、この部活の活動に興味を持つ者はそうそういないからね。普通あんな体験したら逃げ出すんじゃないかな」
「っ、…」
「そうしなかったのは君が何かを求めていたからだろう」
「……」
「今は親の言いなりかもしれない。けど、……ここから先は君の
「……」
「刺激のある毎日の方が楽しくないかい? 毎日普通に学校に行って宿題をやって家に帰って勉強。一人だけの食卓。そんな日常に、命と隣り合わせの亀裂殺しを入れても表面上は大丈夫でしょ」
分かってる、分かっているんだ。だってそれは、私が一番聞きたかった言葉なのだから。
「楽しみたいでしょ、高校生活」
「……はい」
(第1章終わり)
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はい、更新サボってすいません。長くてすいません。楽しみにしていた読者の方々大変申し訳ありませんでしたー!!!
まだ色々と不明点が残っていると思いますが続きは2章でお会いしましょう。
ではまたーー!
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