ep.11 憩いから始める作戦会議



 時は遡り、鳴上と接触した日の喫茶店でのこと。



「それで、霧島君はなんで騙されてるって分かってるのに水瀬ちゃんと付き合うことにしたの?」


「あの子を変えるため」


「ん、全然分かんない。どゆこと?」


「ちなみにだけど、俺に騙されてるっていうくらいだから水瀬の本性については分かってるんだよな?」


「そりゃそうだよ」


「なら俺と鳴上の間で齟齬がないように念の為に鳴上が知る水瀬のことを教えてくれ」



 俺は鳴上を手駒にするのと同時に水瀬についての情報を得るために会話を引き出すために会話を引き延ばしていた。



「あの子はねぇ、中学から一部では有名でさ、男を取っ替え引っ替えして、デート代は出さないし飽きたらすぐに捨てられるし、おまけに誰も手すら繋いだこともないっていう、男からしたら地獄のような少女なわけよ」


「そもそもだけど、それって男のことを好きじゃないってことだよな?」


「んだ。好きでもない男をたぶらかしてるのよ」


「なんのために?」


「んー…………承認欲求的な? 付き合う男はそこそこ人気がある男子達だし、アクセサリー気分なのかな」



 なるほど。

 それは一理あるかもしれないな。

 やっぱこいつは人気者だけあって、わりと核心をついた答えをひょいっと持ってこれる頭の回転の良さがある。



「あと、これは小耳に挟んだくらいだけど、元々は男嫌いだったっていう噂もあるね」


「それはおもしろい話だ。詐欺師の才能があるな」


「もはや既に詐欺師だよ。どの男も相当貢がされてるからね。……というか話が逸れたけど、あれを変えたいってどゆこと?」


「んー、あの子ってああいうことずっとしてきたんだろ? だとすると相当色んなとこから恨み買ってるわけじゃん?」


「まぁ、そりゃそうだね」


「それを続けてるといつか絶対痛い目に合う気がするんだよ。取り返しのつかないような」


「だろうね」


「だからあの子に男漁りをやめさせたいんだよ」



 俺は神のアドバイスを聞いてから、まずは未来で水瀬桃華に何が起こったのかを考えた。

 そこで早速出てくるのが神の言っていた「望まぬ妊娠」と「父親不明」の二つだ。


 これって要するに複数人にレ◯プされて、妊娠したけど誰の種かも分からないって状態のことだろ?


 考えただけで気色悪くて吐きそうだけど、彼女のやっていることを考慮するとそうなってもおかしくはない。


 つまり男漁りを続けたことで恨みを持った人間が増え続け、やばい奴に引っ掛かったことでそいつらに逆人されて襲われたと。

 後日、怖いので検査したら妊娠発覚、大人数にやられているので誰が相手かも分からない。

 しかもそんな噂は学校という狭いコミュニティではあっという間に広がる。


 そして絶望して自殺未遂。

 幸いにも命は助かったが、もうとてもじゃないが学校になんて行けないだろうね……だから退学したと。


 俺の想像的にはこんな流れだと思う。


 そう考えると、俺がやるべきこととしてはそうなる諸悪の根源をまずは断たなきゃならない。

 原因は考えるまでもなく男漁りという人を馬鹿にした行動のことだ。

 どう考えても自業自得なのだが、俺はそれを救うという役割があるのでそのために付き合っておくというわけだ。

 


「それは分かったけど、具体的にどうやってやめさせるの?」



 そう、それが難題だ。


 水瀬は周りから人一倍モテることもあって恐らくかなり自尊心が増長されているので相当他人を見下した性格をしているだろう。

 そういう奴は他人の意見や言葉をまず聞き入れようとはしないだろう。

 だからこそめんどくさいけど、遠回りしてでもあいつが見下さないレベルまであいつの中の俺自身の価値を高めていくしかないだろう。



「まずはあいつがやってることと全く同じことをやり返してやって自分のしていることを思い知らせること。他人をあんまり舐めんなってことを分からせる」


「やり返すってあの水瀬ちゃんに?」


「そうそう。けどあいつを惚れさせんのは短期間じゃあ無理だと思うから、出来るだけ好感度を高めておく。その後に突き落とすようなことをしてやるんだよ」


「まじかよ。一応聞いておくけど、霧島君は水瀬ちゃんのこと好きじゃないの?」


「うん、全く」


「それは今のところ安心した。あと騙されてるって伝えといてなんだけど、あの子ほんとに男心をくすぐる天才だから、どんな男も結局落としてるって聞くけど、霧島君が惚れたらそれ破綻するよね?」


「まぁね。だからこれは戦争だね。惚れた方が確実に負けることになるいわば恋愛戦争だ」



 ちなみにこれを聞いた鳴上はドン引きしてた。

 これが憩いで俺たちが話していた内容の全貌だ。





          ▼▼▼




 翌日、俺は情報収集のために学校を休んだ。


 向かった先は水瀬が通っていた中学校で朝からその登校ラッシュに紛れて卒業生である彼女についての聞き込み調査を行なった。

 制服は着ていたし、擬態はしっかりとしていたので不審者だとは思われていないはず。


 調査の結果、なんと水瀬は三ヶ月に一人のペースで男を替えて喰らい尽くしていたようだった。


 てか普通に男子よ、気付けよ!


 とはいえ過去では俺もまんまと騙されていたので偉そうなことは何一つ言えない。

 男子というのはバカな生き物だと再認識した。


 そして次に聞き込みによって知り得た歴代の彼氏たちに様々な手を使い接触して聞き取り調査をする。


 話を聞いた男共はだいたいはもう吹っ切れていたし、恨みを持ってるような雰囲気はしなかった。

 むしろあんな子の隣に並び立ってたのがおこがましいというような事を言ってる奴もいて、水瀬のやり口の巧妙さが浮き彫りになった結果になった。


 この結果から未来で水瀬に危害を加えたのは歴代の彼氏、ではなくこれからの男というのが有力候補に。


 そして学生でいう放課後の時間になり、俺は今日の目玉となる人物と接触することになる。



「ごめんね、突然呼び出したりして。鳴上から聞いてると思うけど、霧島雫です。よろしくね」


「いえ、全然平気です。うちは小田切成未おだぎり なるみっていいます。よろしくお願いします」



 ポニーテールをふりふりとさせ、ハキハキとした喋り方な元気っ子の後輩というのが第一印象。



「先に聞いとくけど、君が水瀬桃華のっていうのは事実だよね?」


「はい、桃ちゃんはうちの。うちも先に聞いときますけど、あなたが桃ちゃんの新しい彼氏ですか?」



 第二印象は認識の違いを直ちに訂正出来て、思ったことをはっきり聞いていけるような豪胆でサバサバした性格。



「んー……まぁ、一応そうなるかな」


「……一応? なんですか? その曖昧な態度は」



 第三印象は友達想いの強くて優しい少女だということ。

 眉根を寄せて必死に俺のことを睨んでいる。

 正直、あの水瀬にこんな親友がいたことに心底驚いている。

 

 俺は思った。

 対水瀬攻略において、こいつは使える。

 こいつがいるならとことんやれる、と。



「まぁまぁ、そうやって睨まないでくれよ。水瀬から話はちゃんと聞いてる?」


「昨日の今日なのでまだです。彼氏が出来たというのは聞きましたけど……あの、一応ってなんですか?」



 俺は水瀬との関係を伝えたうえで、俺がしようとしていることを大袈裟な言い回しで話す。



「ハァッ!? なんでわざわざそんなひどいことするんですか? 最低ですね」



 案の定、彼女は親友のために激昂した。


 そんな彼女に対して俺は薄ら笑いをして、挑発するような声音でただ正論をぶつける。



「最低なのは好きでもない男を誑かし金を貢がせて用が済んだら捨てる君の親友の方じゃないの?」


「ッ!!」


「おいおい、他人にするのはよくて身内にされるのは嫌っていうのは違うんじゃないの?」


「け、けど……元々は………………」



 この反応で確信した。

 この女は水瀬の悪行を認知している。

 まぁ、親友なんだしそりゃあ知ってるか。



「はぁ……お前それでも本当に水瀬の親友か?」


「親友だよ。桃ちゃんは誰よりも大切な親友だよ!」


「それなら、なんで親友が道を踏み外してるのに止めてやらないんだよ」


「止めたよ!」


「止まってないんだが? いくら本人に伝えたって、それは止めたには入らない。止めてないんだよそれじゃ」



 そもそも水瀬のやっていることを知れば誰がどう見ても悪いし良くないと思うはずだ。

 親友なら尚更そんなことをしている友を放っておくことなんてしないはず。


 だから止めたことあるのは本当なのだろう。


 なのに水瀬の行動は変わらず、親友はそれ以降も見て見ぬ振り。

 ならそれは結局止めたことになりはしない。


 まあ、神のアドバイスの三つ目『過去のトラウマ』を考えれば水瀬が男漁りをするようになった原因はそのトラウマにあるのだろう。


 さて、それじゃあこの女が冷静さを失っているうちに引き出すか。


 そのトラウマってやつを。



「そもそも、勘違いしてるかもしれないけど、俺は何も水瀬にひどいことがしたいわけじゃない」


「じゃあどうして?」


「水瀬に男漁りをやめてまともに幸せになってほしいからやってるわけ」


「そんなことしてやめるわけないじゃん! 余計に男が嫌いになってひどくなるだけだよ!」



 なるほど。

 男嫌いの噂は本当なんだな。



「そうならないように俺がやるって言ってんの」


「そんなこと出来るの?」


「出来る」


「どうやって?」


「水瀬の悪行を見過ごしてたやつに教えるわけないだろ。それに俺のことを信用してないだろ」


「それは……」

 

「お前は水瀬にどうなって欲しいんだよ?」


「桃ちゃんには幸せになって欲しいよ。だからほんとは今してるようなことをやめてほしい」


「じゃあなんでそれを伝えない?」


「伝えたよ? でも聞く耳を」


「届くまで伝えるもんだろ。なんで途中でやめてんだよ。親友の頬を殴ってでも大切なら止めるもんだろ」


「出来るわけないじゃない! うちが最初にそうするようにそそのかしちゃったんだから!!!!」



 小田切成未は顔を涙でぐしゃぐしゃにして息を切らしながら、そう叫んだ。

 

 そういうことね。


 きっかけを作ったのが自分だから止めようにも強く止めることが出来ず、嫌われる勇気もなかったと。



「分かった。君が水瀬を心から大切に想う気持ちは伝わった。俺も君のその心を信じよう」


「先輩なら……桃ちゃんを止めてくれますか?」


「約束するよ。俺が水瀬を止める。ただ、俺だけじゃあ出来ないと思う。だから小田切も俺に協力してくれるか?」


「……うちに出来ることなら、なんでも」


「なら小田切も俺と約束してくれ。俺の行動は全て水瀬のためだ。何があってもこの言葉を信じれるか?」


「はい、信じます。桃ちゃんをお願いします」





 こうして俺は水瀬の過去を知ることになる。




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