やっぱりファンタジーはダークがいい


「人が死ぬ話が好きなんだ」

「俺も」


 いつもの屋上。山下から突如として放たれた物騒なセリフに、橋本はノータイムで同意する。


「今更どうした」

「それも主人公がちゃんと人を殺すファンタジーが」

「いっぱいあるけど」

「なんかさ、主人公には殺しをさせたくない作品っていっぱいあるじゃん。」

「まあ、あるね」

「そのくせ視聴者達の敵に向いたヘイトは何とかしたいから、別のやつに殺させるやつ。敵陣営の奴が"組織の面汚しめ"とか言って逃げおおせたそいつを殺す、みたいな」

「あー……あるな」

「甘えんなって話よ! 世の中そう甘くないんです!」


 山下はバンバンと床を叩いて怒りを顕にする。が、橋本は同意しつつこうも反論する。


「でも、見逃した敵のトコに味方陣営が一人で行って"こんな仕事、アイツにはやらせられねぇからな"って容赦なく殺すやつは好きだろ?」

「好きだよ!! でもそれはさ、ちゃんと味方陣営が闇を背負ってるからいいのよ」

「俺も山下の意見には概ね同意だな。でもずっと殺さずでやってきた主人公が切羽詰まって遂に手を汚すのも好きだ」

「うわ〜〜! その十字架を一生背負え〜〜!」

「ずっと引きずるのもいいし、そこで壊れるのも良い」

「一度人を殺すとそれが脳内で選択肢になってしまう〜!」

「山下は自分がその立場になったらどっちがいい?」


 山下は「うーん……」と暫く唸ったあと。


「後者かな。殺しが選択肢になったことに自分で気づかずに簡単に人殺そうとして、ヒロインに止められてハッとしたい」

「おお、いいね。」

「"え? なんで止めるの?""お、おかしいよ……そんな、殺す必要なんて無いよ……!"」

「俺は簡単に殺すせいで後戻りできなくなりたいな。あの時、アイツを殺すべきじゃなかったってなるけど時は戻らない。」

「"確かに時は戻らないけど……ここからやり直せるよ! 俺と一緒に来い!"」

「"……無理だよ。もう後戻りはできない。今更、お前らと一緒になんて……な"」

「救われない死に方するな〜お前。…………。」


 山下は暫く黙った後、まっすぐ橋本を見据える。


「俺達、吸血鬼に黒魔術師じゃん」

「そうだな」

「人を殺すことになることがないとは言えないじゃん」

「そうだな」

「最初の殺人は大事にしようぜ。もしかしたらどちらかがどちらかを殺すかもしれねぇ」

「この作風だとそうはならないと思うけどな」


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