ゲストの意向による色恋の話


 本日も屋上、そして前回に続いてゲストがいらっしゃっている。


「本日のゲストは前回に続いて〜っ、由佳さんでぇーす!」

「はい、どーもー」


 今回は最早突っ込むこともない。どうせシカトされるから諦めたのだろう。


「あんさ、うちのことゲストとか言うならゲストに話をさせろよ」

「え? させてたじゃん」

「題材はうちが決める」


 我を出しているように見えて、その実これは早くも二人に染まり始めてることに他ならない。

 が、山下はその事でニヤついたりしない。何故なら、別に嬉しくはないから。


「じゃ、聞かせてもらおうか」

「高校生なんだからさ、普通に気になるコの話とかしようよ」

「「…………はぁ〜〜」」


 由佳の案を聞いた二人は同時にため息をつく。橋本は左手で目を覆い、山下は仰向けに倒れて。


「ちょっと、なんだよその反応」

「ガキってなぁすぐこれだよ」

「口を開けば彼女だ彼氏だ」

「アンタら同い年だよね? 同じガキでしょうが」

「しょーもねぇ、付き合ってやるか」

「しょうがねぇ、みたいな言い方すんな」


 由佳は小さく咳払いをして気持ちを切り替える。


「実際さ、アンタらも好きな人ができないだけで出来たらその人大好き大好きになるはずだから。そういうもんだから」

「はいはいそうですか」

「例えばー、んー、美香奈とかどう?」

「橘? 手芸部の?」

「俺しらーん。よーしっとるな」

「同じクラスだぞ」

「そそ。どう?」

「あいつかー、あいつはな……」


 橋本は首をぐるりと回してゴキゴキと鳴らす。


「シコいな」

「この話やめる?」

「詳しく聞こうか」


 早速後悔する由佳とは反対に山下は食いつく。


「前髪で目隠れ、眼鏡、猫背、低身長。……そしてアイツ、隠れ巨乳だよな」

「な、なんだってー!?」

「はぁ……よく見てんね」

「つまり本当なのか、由佳」

「はいはいそうですよ。」

「由佳、アイツと仲いいよな。なんか意外な組み合わせだけど」

「美香奈可愛いんだよ。ドジでさ、普段ブラックコーヒー飲むんだけどこの前間違えてマックスコーヒー買ってて、ウェ〜って顔で飲んでて」

「目隠れメガネ猫背隠れ巨乳ドジ!? 盛りすぎだろ、怒られるぞ……。由佳、お前の友達チンチンイライラするな」

「マジで最悪、ぶち殺すぞ」

「な? 俺達にこんな話題やめとけって」


 しかし、由佳は不屈の精神をその瞳に宿している。


「美香奈はどうなんだよ。他にも理想の彼女像とかあるでしょ?」

「橘はまぁ、いい子だよね」

「属性はな」

「中身は知らないし」

「じゃあ理想の彼女ったら?」

「それ聞く? 長くなるよ」

「じゃあ早くしろ」


 「ならまずは俺から!」と山下が挙手する。


「丸眼鏡ショートボブ、肌の露出は少なくてベージュ系の色味の服装の文学少女」

「中身は」

「中身ねぇ。大人しい見た目でもおどおどじゃなくて、言いたい事言うコがいいな。あとあんまりベタベタじゃない方がいいかねぇ」

「"今日? 読みかけの本あるから今度にして"」

「でも体調崩して寝込んでる時にはちゃんと見舞い来てくれたり」

「"ゼリー買ってきたよ。冷蔵庫入れとくから"」

「内心かなり心配してるけど表に出さなかったり」

「"おかゆ? そんなステレオタイプな彼女求めんな。……チッ、しょうがないな"」

「おい橋本。山下のターンなのにさ、その、それ。その気持ち悪い合いの手なんなの?」

「まぁ見とけ。交代したら今度は山下がこうなる」

「あたぼうよ」


 橋本は首の骨を鳴ら──そうとして、さっき鳴らしてしまったことを思い出す。


「俺は正直なんでも愛せるからな。ここは山下と反対でガッツリボーイッシュでスポーティなコでいく。短髪でハツラツなやつ」

「いいね」

「浮気の恐れあり、と」

「部活は……なんでもいいかな。陸上部とか?」

「ふーん、なんかフツ──」

「おっとスケベすぎる!」

「褐色、いいよね」

「日焼け跡がガッツリなのに水着なんか着ちゃって……」

「あーいけないいけない。でもそんな邪な感情はおくびにも出しません」

「"お、おいっ。こんなの、アタシには似合わねーよ……"」

「待って待って、とまって」


 由佳の言葉には耳を貸さず、二人はアクセルを踏み続ける。


「盛り上がってきたね。そう言いつつも褒め言葉を期待してる」

「"かっ、かわいい、って……"」

「褒めちぎるうちに自分からおしゃれに興味持つようになって、頑張って選んだ服でデートに臨む」

「スケベェェェェェ!!!!」

「あぁもう……」


 学校へ行こう! よろしくフェンスから身を乗り出して天に叫ぶ山下を見て、二人の手に終えなさに由佳は困窮した。

 敗北を認めた彼女は立ち上がり、とぼとぼと屋上を後にする。そのまま姿が見えなくなったのを確認してから。


「ね、由佳さ、橘のことやけに推してなかった? 橋本に」

「まぁ、たしかに。」

「もしかして橋本に気があって、それでちょっくらサーチかけに来たとか……」


 二人は、顔を見合わせる。


「「はははははは」」

「ないない」

「だな」

 


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