女子ウケの良い趣味ってなに?


「さて、今日はゲストの方がいます!」


 昼休みの屋上。今日は山下と橋本に加えてもう一人人間がいた。屋上で駄弁る、という行為に少しばかり憧れを抱いていた者。

 当の本人は山下の言葉に驚き、意味もなく辺りを見渡す。


「え? なになに? うちのこと? ゲスト? なに?」

「ちょっと、パーソナリティが紹介する前に喋るなよ」

「あ、すいません。……は? なに? 元から見えてるからいいでしょ。ラジオなの?」

「はぁ……まぁいいや。今日はゲストがいるからね、ゲストも参加しやすい題材を用意したよ」

「題材? ラジオなの?」

「いや、いつも何かしらにそって話してるから。」

「例えば?」

「持ちたい武器の話とか」

「理想の死に方とか」

「オタクのラジオなの?」


 同じ質問ばかりする低スペックの由佳は無視して、山下は人差し指を立てる。


「ズバリ、女ウケする趣味ってなんだろう、という話ですよ」

「今日はやけに建設的な話だな」

「女ウケ……うちがいるからか」

「そ」


 由佳もなかなか適応力が高いらしく、話に乗る。最も、山下はひと目で尋常じゃない適応力だと見抜いていたが。


「まずひとつ、俺達料理できるじゃん? それは女ウケいいよね?」

「うーん、若い子だとそうでもないこともあるよ」

「というと?」

「あんまりレパートリー多かったり上手かったりすると『そこまで上手いとプライド傷付く』って言う子もいるし」

「うわめんどくせ〜!」

「米も炊けねぇ男と結婚して一生後悔しろ」

「そこまで言わなくてもいいじゃん……うちの話でもないんだし……」

「次行こう。俺達アニオタだけど、それは女ウケ良くないよな」

「んー、どーだろ。最近は珍しくもないし、部屋がフィギュアで埋まってるとかじゃなければ」

「それなら大丈夫だな。俺らそういうタイプじゃねぇし」

「フィギュアとかアクスタより劇中に出てくるグッズのが欲しいよな」

「わかる。キャラの使ってる眼鏡、アクセ、トートバッグくらいなら低予算で作れるからたまにあるな」

「常に手帳持ってるキャラの使ってるのと同じ装丁の手帳」

「すばらし!」

「今のアンタらは、女子ウケ悪い」


 思わず立ち上がって橋本を指差していた山下は、「危ない危ない」と座り直す。


「ドールとかどう?」

「ドールって大人向けのやつ?」

「そそ。ちょっと興味あるんよね。高いから手が出ないけど」

「あれはちょっとなぁ〜。うちは無理かなぁ」

「えー? でもめっちゃいけいけな感じの男がドールショップいたらちょっとキュンってしない?」

「それはドール趣味じゃなくていけいけな感じの男にキュンってしてんの。それにギャップ萌えならもっといろいろあるでしょ。サンリオ好きくらいでいいの。」

「うわー! やだー!」

「俺もヤダ。サンリオ好きでキノコ頭の男嫌い。」

「小綺麗なトイレの鏡でちょっと首傾げて自撮り」

「好きなのは酒じゃなくて酒が好きな俺」

「うわ〜〜!! 死んでくれ〜〜!!このナイフで死んでくれ〜〜!!」

「アンタらうちのこと嫌いなん?」


 サンリオ好きという情報だけで勝手にディテールが細かくなってしまう。二人の悪い癖だ。


「まぁ安心してくれよ。俺はドール買うなら写真撮りたいからカメラをまず買うつもりなんだけどね、そこで"カメラにのめり込んでドールを忘れる"か"カメラにハマらなくてドールも忘れる"の2ルートしかないんよ」

「脱線したまま進むか脱線して止まるしかないのかよ」

「うち別に山下のこと心配なんかしてねぇけど」

「うわつめてぇ〜! そんなんだからフられるんだよ」

「テメェ……!」

「スマン」


 由佳の怒りを買ってしまった。山下は話題を逸らそうと「女子目線からはどうなの」と問いかける。


「んー、普通に音楽とかは外さないでしょ」

「音楽なぁ。実際楽器は興味はあるけど……」

「もっと入りやすく、歌はどう? カラオケで歌うまい奴って普通にカッコよくない?」

「あ、確かに。橋本にしてはいいこと言うじゃん。アンタらはどうなの」

「俺らなぁ。まぁ、採点入れたら90前後だよね」

「そうだな」

「十分じゃん。それはいいんじゃないの?」

「でもな、音程合ってるだけなのよ」

「そう。カラオケ偏差値低い奴らと行くとチヤホヤされるけど、本当にうまいやつと行くとひれ伏すしかない」

「こ、これが本物……ってなるね」

「地方大会でデカイ顔していざ全国で己の矮小さを知る井の中の蛙だよ」

「そのくせ空の青さも知らぬ」

「アンタら、そのすぐ二人だけのテンポの会話になるの良くないよ」

「今はその二人がいるんだからいいだろ」

「うちは?」

「着いてこれない雑魚は寝てな」


 由佳は頭を抱え、大きくため息をつく。


「てかアンタらさ、実際彼女とかほしいの?」

「「え?」」

「顔も悪くないんだし、癪だけど頭も良いんだからすぐできるでしょ」


 由佳の言葉に、今度は二人が頭を抱えてそれはそれは大きくため息をつく。


「ちげぇのよ、そういう話じゃねぇのよ」

「わかってないな」

「ん? え?」

「彼女なんてめんどくせぇ、いらねぇよそんなもん」

「うんうん」

「いやでも、女子ウケしたいんじゃないの?」

「したいよ。でも女子ウケしたいだけなんよ」

「なんなら惚れてもらって、そのまま告白されずに自分だけが気持ちいいぬるま湯みたいな状況がベスト」

「そーそーそれがサイコ〜なのよ〜」


 由佳は呆れ果てる。その目は二人を見ているようで見ていない。その先の遠い景色を仰いでいて。


「アンタら、さいあく」


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