妹が欲しいよ


「にーちゃんはいるどー」


 その声と共に部屋の扉が蹴破られる。入ってきたのは全身ジャージ姿、180に達しそうな高身長の女。


「あ、祐希君来てたんだ。」

「ども〜」

「ほい、ポップコーンあげる」

「ありがとう」


 彼女は橋本に( 彼女もまた橋本だが )電子レンジで加熱するタイプのポップコーンを袋ごと投げると、部屋の中を軽く見渡す。


「今日はジギルさんいないんだ」

「ヘルプだって。」

「断罪のヘルプってやつ? 残念」


 それだけいうと用は済んだのか出ていってしまう。


「……どあ蹴破られたけどいいの?」

「次回には直ってるから」

「あかりちゃん、ジギルのこと大好きだね」

「知識も語彙力も豊富だし顔もいいからね」

「ジギルいたかもなのにどあ蹴破ってきたけど」

「ジギル君、おしとやかな子よりそのくらいトんでる子の方が気にいるでしょ」

「たしかに」


 山下は「あーあ、いいなあ」と天井を仰ぐ。


「妹、ほしいなぁ」

「兄弟いないもんな」

「兄弟ってか妹だよ、欲しいの。お兄ちゃんが大好きな妹。お兄ちゃんに彼氏ができると不満そうな顔する妹。」

「俺もアイツと仲はいいけどそこまでじゃないな」

「橋本にも理想の妹ってある?」

「妹がいるからこそ、ある」

「聞こう」


 「うむ」と首の骨を鳴らす。


「家庭的である必要は無いけどたまにお菓子作ってほしい」

「イイね。無難にアイスボックスクッキー」

「趣味とかはなんだかんだ合わなくないから現状満足かな。山下はどんな?」

「ホラー苦手なのにホラー映画一緒に見て、夜枕持って部屋のドアをノックしてほしい」

「"べ、別に怖いとかじゃないけど……"」

「"と、トイレ行きたいんだけど、ついてきてもいいわよっ"」

「"み、耳塞いでなさいよ!""わかったわかった。…………。"」

「"ちょっと! なんで返事しないのよ!"」

「妹いない人間的には妹にツンデレって欲しいのか?」

「俺は別にツンデレはいらないかな」

「他に何かある?」

「あれだな。リビングでだらだらしてる時とかさ、こう、俺が普通に座って、妹は俺と直角になって肘掛けを枕に、俺の膝を足置きにして漫画とか読んでほしいね」

「なるほど。それちょっとやってみようか」

「は?」


 橋本は立ち上がると部屋の外に出ていく。そのすぐあと、ドアを蹴破る音が聞こえた。


「この家の文化なのかな」


 橋本と山下、そして橋本妹であるあかりの三人はリビングに移動。目の前には横幅の広いソファがある。高身長のあかりでも十分横になれる。

 橋本はそれに座ると、自分の膝を叩く。


「じゃ、頼む」

「それって膝枕のときにやるやつじゃないの?」

「早く」

「はいはい」


 あかりは肘掛けを枕に、そして足を兄の膝の上に放り出す。そしてついさっきまで一人で読んでいた漫画を読む。


「どうだ、橋本」

「んー……。ま悪くはないけど、こう、頼んでやるのって違うよな」

「そりゃそうだろ。ちょっと変わってくれよ」

「わかった」

「あれあれ、私はやる前提なのか?」


 交代。今度は山下がソファに座り、その膝の上にあかりの足が乗る。

 山下は「おぉ〜」と声を漏らし。


「いいじゃん。これで一時間くらいだらだらしたいね」

「私は何に付き合わされてんの?」

「理想の妹像について」

「はぁ〜ん。それなら私にもあるよ、理想の兄像」

「何だ、お兄ちゃんに話してみな」


 あかりは「はっ」と鼻で笑うと立ち上がり、リビングから出ていこうとする。

 ドアノブに手をかけながら振り返り。


「妹にこんなくだらねーことさせない兄」

「でもこんなお兄ちゃんもそれはそれで好きだろ?」

「まぁな」

「やっぱいいなぁ。俺も妹ほしい」

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