性癖のミーハーにはなりたくない


 屋上ですはい。


「山下はさ、好きな"女子の仕草"ってあるか?」

「そりゃ、誰だってあるでしょ」

「これ、ありふれた質問じゃん」

「そうだね」

「で、ありふれた答えは"髪をかきあげる仕草"」

「聞き飽きたね。"秘書がやりました"くらい聞いた」

「好きな仕草って大きく括れば性癖、だろ?」

「まぁー、そうなるかね」

「俺は、性癖のミーハーにはなりたくない」

「はは、ちげぇねぇ。」


 というわけで今回は、より深い性癖の世界へご招待。


「俺はな、"特定の色のタイルだけを踏んで歩く女子"だ。勿論児ポじゃない。大の大人がやってるから、良い」

「……! やるな。その女子、上はモコモコダウンに下はミニスカでも……?」

「上下で差があるシルエットか。許可する。その場合、傍らには高身長チェスターコートの女がいる。"まーたやってるよ"と呆れ顔をしてな」

「チョット! いきなり百合になってしまいましタ! それもアリなの!?」

「ありだろ。山下はどうだ」

「そうさな……。"電車で隣の人に思い切り寄りかかって寝てしまい、起きたあとにペコペコ謝る女子"ッ」

「人見知りとそのくせ他人に寄りかかる気の緩みの同居が味わえるな。"女にモテそうなタイプのイケメン女だが、アニメコラボカフェのポスターの前で足を止めてガン見する女子"」

「オイオイオイ! 好意的な意味でってか!? そんなのいる訳ねぇだろ!?」

「いたんだよ、俺は見た。ソイツをガン見してしまった。」

「アニメコラボカフェのポスターをガン見するイケメン女をガン見するお前。それは何も良くないから。"主人公に一度褒められた髪型をずっと続けるヒロイン"」

「ちょっと待て。急に次元が下がったよ。今日は三次元の話してんだよ。それも良いけどさ」


 山下の良くないところが出た。ここは一旦、仕切り直しである。


「あーごめんごめん。えーとじゃあ、"低身長丸眼鏡猫背ロングスカートで肌露出最小限色味は全体的にベージュ文学少女"」

「ストップ。急に解像度上がりすぎ。性癖じゃなくて仕草の話なんだよ。"あははでもうふふでもなくいししって笑う女子"とかさ」

「おお、いいねぇそれ。じゃあ"寝起きに細目でボサボサ頭の後頭部掻きむしる女子"」

「いいよいいよ。温まってきた。"パスタ食ったとき一番最後の短いのがフォークでうまく掬えなくて苦い顔してる女子"」

「良いッ。付き合いてぇ〜! なんで僕にはそんな彼女がいないんですか!?」

「そんな感じだからだろうな」

「うわぁぁぁぁぁ!! "全然興味ないんだけど偶然やってた格闘技をなんか最後まで見ちゃう女子"!」

「悪くない」

「なんでいないんだぁぁぁぁ!!」


 すべてを呪い、天を穿つ山下の雄叫びに呼応するように、屋上の出入り口が開く。


「わ、マジでいた」

「え、由佳?」

「新キャラじゃん」


 現れた彼女は山下の叫びに呼応して舞い降りた新キャラ、ではありません。以前サイコパスである橋本に電話を無視された女バスの由佳でした。


「なんか屋上にいるって風の噂で聞いてさ」

「広まってんの? やばいな」

「うちの橋本に何の用かね。事前にアポ取ってもらわないと困るよ。電話はどうせ無視されるんだけどね」

「コイツ電話無視すんのいつものことだから」

「由佳の電話長くてさ」

「うわ、サイテー」

「おい、俺をおいていちゃつくなよ。フェンスの外でやれ」

「ごめんごめん。でも大した用はないよ。半信半疑できてみただけ。」

「そうか。では帰ってくれ」

「何? うちのこと嫌いなの? ちょっと失恋したから愚痴聞けよ」

「えっ……」


 由佳の何気ない言葉に、橋本は目を丸くする。


「由佳、俺のこと好きなんじゃなかったの?」

「は? ちょっと言動顧みろよ」

「え? え? ちょっとちょっと橋本クン?」


 山下は先とうってかわってぱぁっと明るい表情になる。そのまま橋本の間抜け面の前を十往復ほど反復横飛びして。


「ダッセ〜〜〜! ええぇえぇぇ! うっひょ〜〜〜!! 気持ちえぇ〜〜!!!」

「クソがぁぁあぁあぁ!!」

「うっせ」



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