人は産まれ方は選べずとも死に方なら選べるらしい
はい、今回のロケーションは屋上です。
「産まれ方は選べないけど死に方は選べる、って言うじゃん」
「聞いたことあるね」
本日も晴れ。青の中にいい具合に白が浮かんでおります。7:3くらいです。
「壮絶な死に方、してぇよな……」
「したいね。子孫に見守られて老衰で、なんてまっぴらだな」
「その通り! なので、ちょっとやってみようよ。理想の死に方ってヤツをよ」
「よかろう」
まずは山下のターン。彼はフェンスにもたれかかるように座ると、左手で力なく腹部をおさえる。どうやらそこに致命的なダメージを負ったらしい。
「俺と橋本は親友というかタッグな。橋本はちょっと無愛想なクールキャラ」
「そういえばだけど山下ってどのくらいのダメージで死ぬんだ?」
「そういうのはいいんだよ。俺もよく知らねぇよ。今は人間の枠組みで考えてくれ」
「わかった」
「……ッ! はは、こいつぁもう無理だな」
山下は震える右の手で内ポケットから何かを取り出し、その中身の何かを口に咥える。
どうやら理想の死に方ランキングでも毎年上位に食い込む人気死に方、"最後の一服"らしい。捻りは無いが確かにかっこいい死に方だ。
「火ィ、くれよ。最後くらい……いいだろ」
最低限の台詞で必要な情報がかなり練り込まれている。これはつまり、"相棒( 橋本 )は喫煙に反対していた"ということに他ならない。
「……ッチ、クソ……。……馬鹿野郎、俺はライター持ってねぇっての」
「あ、待って待って違う違う」
「え?」
橋本は完璧な返しをしたと自負していた。喫煙に反対、つまりライターなど持っているはずがない。そもそもその読みが外れたのか。
「喫煙反対って受け取ったんだろ? それは正解なんだけど、相棒は炎系の能力者だから。俺は……この際なんでもいいや」
「え? そういう? 嘘過ぎない? 人間の枠組みは?」
「いいだろそこは。仕切り直すから」
「はいはい」
「……っ! はは、こいつぁもう無理だな」
そっからかよ。
「火ィ、くれよ。最後くらい……いいだろ」
「……わかったよ」
「待って待って、黙ってつけてほしい」
「もういいだろ!」
「……。火ィ、くれよ。最後くらい……いいだろ」
「……。」
橋本は黙りながらも、指を( 恐らくこの辺にタバコの先があるだろう辺りに )近づけてパチンと鳴らす。
山下は「今のイイね!」という顔に一瞬緩むも、気を引き締めて死にかけの顔になおる。
「……は、悪くねぇ。百円ライターよりは上等な味だ」
「うるせぇよ。……さっさと、くたばっちまえ」
「言われなくても……そう……なる……」
山下の右手から力が抜け、ポトリと地面に落ちる。
「ここで自分の血溜まりでタバコの火が消える。相棒は俺に最後まで涙を見せない。墓の前で初めてタバコを吸う。死ぬのが二期の三話ラストかな」
「なるほどね。こんな死に方なら額縁に入れて飾ってほしいな」
次は橋本の番である。
「山下は俺の弟子な」
「弟子はめっちゃ慕ってるけど師匠は弟子を認めてない感じ?」
「よくわかってるね」
橋本は首の骨を鳴らし、「っし」と一息つき。
「コウキ! 避けろ!」
橋本に突き飛ばされた山下はフェンスにぶつかり、同時に叫ぶ。
「え、待ってコウキって俺?」
「そりゃそうだろ。わかるだろ。因みに名前を呼んだのはこれが初めてでそれまでは"小僧"か"ガキ"」
「漢字でどう書くの?」
「どうでもいいだろ。カタカナだよ」
「めちゃくちゃヴァンガードっぽい」
「他に質問は?」
「世界観とか重要?」
「そこは把握しなくて大丈夫」
「おっけ」
仕切り直し。
「コウキ! 避けろ!」
「師匠!?」
突き飛ばされた山下の台詞。今度はちゃんとシチュエーションに合ったものになった。
「ぐしゃぁ……っ」
「効果音口で言うんだ」
「くっ……かはっ……」
「し、師匠!」
その場に倒れる橋本を、駆け寄った山下が受け止める。
「の、馬鹿野郎……ッ! こんくらい、自分で……避けろ……」
「師匠! そんな、どうして……!」
「ユウキ……お前よぉ……」
「え、待って。コウキじゃなかった?」
「うるせこの際名前なんてどうでもいいんだよ。うんちみたいなヘンテコじゃなけりゃ」
「うんち……女の子って」
「それ掘り返すな面倒臭い」
「わかった、名前はどうでもいい。」
仕切り直し。
「てかそうだ。ここでユウキ覚醒して敵倒して、んで帰ってきたとこな。」
「了解」
「ユウキ……お前よぉ……頭ワルくて要領ワリィし、センスねえし……ゴホッ、言う事聞かねぇし、頭悪ィし……」
「頭悪いって、二回、言ってますよ、師匠……」
「けっ、こういう、時だけ、うるせぇしよ……カハッ……! 服ダセェし、口クセェし、ゲホッゲホッ、友達いねぇし」
「ちょ、ちょっとタンマ。流石に言い過ぎじゃね? やりすぎだろ」
「今のはたしかにそうだな。悪い。」
仕切り直し。
「最後に一つ、言わなきゃッ、ならねぇことが……」
「さ、最後なんて、やめてくださいよ、ししょぉ……」
「敵の親玉……アイツは、俺の、一番弟子だ……」
「そ、そんな……!」
「だから、テメェで、ケリを……つけるつもり、だった……。お前に、背負わせちまって……ゴホッ!」
「も、もう喋らんでください、師匠!」
「うるせ。黙ッて、聞け。……アイツは、オメェより、頭も、要領も、戦闘の……センスも良い。だがな……」
「……」
「お前より、大馬鹿モンだ……。だから、お前、なら……」
「師匠……。師匠……?」
「…………。」
「ししょおおおおお!!!」
満足した橋本はぱちっと目を開ける。
「こんな感じだな」
「いいじゃん。でもそっちもじゅうぶん嘘じゃねぇか」
「俺は黒魔術自力で発見したから。師匠のポテンシャルある筈」
「たしかに。でも世界観違すぎでしょ」
「細かいこたいいんだよ。山下こそ吸血鬼なんだからどう転んでも死に際は派手だろ」
「まぁね〜。長命種だもんね〜。どう転んでもドラマティック間違いなしだよね〜」
「ティッって言うなティッて。ムカつくわ」
「橋本だっていつか召喚士バトルになるかもよ? そしたらもうドラマティックまっしぐらでしょ」
「ないとは言い切れないな。死にそうになったら眷属にしてくれ」
「あー、それも浪漫だねぇ。死にそうな友を眷属に。でもそしたら2属性持ちじゃん。ズル。いいけど」
「その時は黒魔術も教えるよ」
「やった。あのさ、もしかしたら俺ら」
「俺ら……」
「「既にかなり壮絶な人生歩み始めてるのでは〜〜!?」」
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