今、必要な地獄を決めよう


 山下と橋本は、橋本宅でジギルを交えてあつ森を興じていた。

 通信せずに、各々で。


「なーなージギル」

『なに?』

「ジギルって悪魔なわけじゃん。地獄的なところで罪人を裁いたり捌いたりしてんの?」

『僕はそういうのじゃないけど、そういう場所も確かにあるよ。たまに手伝い行ったりするし』

「そんなバイトのヘルプみたいな感じなんだ」


 ジギル曰く、罪人の裁き方は悪魔やら鬼やら各々の自由らしい。『放置してるだけでも辛いからね。だって死なないのにお腹は空き続けるんだよ』とのこと。


「仏教の地獄ってさ、なになにをした人が落ちるとこ、みたいな細かくあるじゃん」

「あるな」

『そうみたいですね』

「でもそれって昔の価値観のわけよ。今の時代だからこそ必要な地獄、あるんじゃないですか? 考えてみましょうよ」

「いいと思うよ」

『良い案が出たら上申してみるよ』

「そんな仕事みたいな」


 山下は既に一つ考えていたようで、ゲームの手を止めずに最初の一つを提案する。


「まず、"アルハラの者が落ちる地獄"。煮えたぎる溶岩を飲まされるってのはどうよ」

「煮えたぎる溶岩か。なんかありきたりだな」

『そんな感じのもうあるよ』

「じゃあ酒でいい。しかもとびきり質の悪い酒。どんな酒豪でも無限に飲めるわけじゃないでしょ。で、ゲロったらそのゲロを飲ませる」

「最高に最悪だね」

『でも汚いからやりたくないね。基本放置でも効くやつは何かない?』

「注文多いなこの真っ黒野郎」


 良い案は浮かばず、次に橋本が案を出す。


「"店で理不尽なクレーム出す奴が落ちる地獄"。コンビニみたいな建物作って、店員やらせる。で、ひたすら理不尽な注文つけて無理やりやらせる。眼球をくり抜いて寄越せとか」

「急にすげぇ絞ってきたな。アキネイターか?」

『それ、ちょっと面白そう。向こうはこっちと違うから、物とかは好きなだけ作れるんだよ』

「"店員さん、ちょっと局部切り取って指人形にしてよ"」

「"オイコラ、35番の罪人の前歯って言ってんだろ! 番号で言ってやってんだぞモタモタすんな!"」

『"このゴキブリ目に入れてよ。6匹。"』

「ちょっと罰重すぎね?」

「ああいう輩は他にもろくでもないことしてるからいいよ」

『二人はそうならないようにね。これちょっと面白そうだから今度手伝いに行ったとき話してみるよ』


 ここでこの中では一番本物の地獄に詳しき者、ジギルが出る。


『次はもっとピンポイントにしていきたいけど……今の時代これは外せないんじゃないかな。"転売屋の落ちる地獄"と"海賊版サイト運営の落ちる地獄"』

「その通り!」

「万年を生きて尚時代に取り残されない悪魔の鑑」

『どうしようかな。せっせと物を作らせて、それをひたすら叩き割る。微妙かな。』

「全裸にひん剥いて縛り上げて、黒歴史エピソードを音読しながら凱旋」

『ゆーきクン、素晴らしい発想だけど羞恥的なダメージは慣れると効かなくなっちゃうんだよね』

「なるほど、勉強になる」

「作らせた物を叩き割るにしてもオプションつけるのはどうかな。物を作る引き換えに食い物を与える。ノルマをだんだん増やす。ある時莫大なノルマの代わりにステーキでも用意して、ノルマクリアしたら縛り上げて目の前でそのステーキを食らう」

『いいね。手間と時間はかかるけど達成感がありそう』

「達成したのは罪人なのに本人は達成感を得られない」

「ぴったりじゃん」


 一人一つずつ出し終えたところで、橋本は「そういえば」とジギルを見る。


「ジギルだから話すけど、山下って吸血鬼らしいよ」

『ああ、なるほど』

「? え、なにもしかして気付いてたの?」

『人間じゃないな、というのはね』

「……知ってたのかよ。……もしかして、そういう妖怪というか怪異的なのって色々いるの?」

『いるよ』

「うちの学校にも?」

『この前は数分しか滞在してなかったからあんまりわかんなかったけど、何人か人間じゃない気配はしたね』

「…………。」


 橋本は呆れ顔でジギルを見やる。


『え? どうしたの?』

「いや、言えよ。教えてよ。気になるじゃん」

『聞かれなかったからね』

「お前はキュゥべえかよ」

『失礼な。しょークンに都合悪いことなんてしてないでしょ』

「それはそうだけどさ……」


 吸血鬼なり他の存在なり、そんなものがいるなら気になるに決まってる。普通話すだろ、と思うが人間の普通は通じないのか。


「ジギル君、君は"ミスリードを誘う詐欺師が落ちる地獄"行きだ」

『そんな殺生な。理不尽だよ』

「この家具送ってあげる約束だったけどやめようかな」

『本当にごめんなさい!』


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