サイコパスの話をしよう


「サイコパスの話をしよう」

「安っぽい話題が来たね」


 帰り道。山下は名案とでも言いたげに指を一本立てた。


「自分に何もない、ストレングスが0だから3のインテリジェンスが自分の個性だと勘違いしてる雑魚ってサイコパスに憧れるじゃん?」

「酷い言い様だね。手加減しようよ」

「ネットの表層にあるうっす〜いサイコパスはもうゴメンなんだよ。それサイコパスじゃなくてただの快楽殺人者だろってやつ」

「まぁそれは、確かに」


 山下はスマートフォンで『サイコパスクイズ』を検索し、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「夫の結婚式で」

「また"彼"に会えると思ったから」

「これもう義務教育だよな」

「義務教育抜けたての俺等には記憶に新しいね」

「これはまぁ確かにサイコパスかもしれないけど、もっと掘られてない日常のサイコパスを探そうってコト」

「すごく楽しそうだ」


 山下は片眉を上げ、ニヤリと笑って「だろ?」と一言。


「じゃ、コイツサイコパスだなぁ〜って……あるある? なんかある?」

「んー……"トイレットペーパーを使わないやつ"」

「そんなやついる?」

「そんな国はある」

「それはサイコパスじゃなくて習慣とか環境とかの話だろ。失礼だわ」


 橋本は「あー? 急に言われてもなぁ」とぼやく。


「"トマトジュース好き好んで飲むやつ"」

「俺じゃねぇか。美味いだろ」

「美味くはねぇよ」


 見かねた山下は「じゃ俺」と大袈裟に挙手する。


「"テニスをするテニスサークル"」

「山下、お前それ、それはお前偏見だよ。本来はそれが正しいだろ」

「大学のテニスサークルなんてどこもペニスサークルだろ?」

「使い古されたネタを言うな。殺すぞ」

「そんなに?」


 山下は懲りずに、「じゃあじゃあ」と。


「"貧乏なのにスタバ常飲してる大学生"」

「お、いいじゃん。精度上がってきたよ」

「よし。橋本の番」

「そうだなー。"料理では水道水使うのに飲むときは頑なに売ってる水買うやつ"」

「くぅ〜いいね!」

「ただの悪口になってない?」

「いいじゃん。楽しいだろ、悪口」


 電車に乗ってからもサイコパスあるある、もとい悪口は続く。


「"高校卒業から自分おっさんアピしてたのに30になっておっさんて言われるとキレるやつ"」

「いそ〜。知らねぇけどいそ〜〜。"アメリカでは云々言ってるけどアメリカ行ったこと無いやつ"」

「いいね。国内に五千人はいるね。"ドラクエは9が一番面白いって言う、9しかやってないやつ"」

「! いた! いたわ! "夏タイヤで雪道行くやつ"」

「毎年いるよね。なんでだろうね。"爪切りの時の下敷きにも高級ティッシュ使うやつ"」

「素晴らしい!」


 電車を降り、やはりまだ悪口が続くかと思った時。橋本のスマートフォンが着信を知らせる。しかし彼は相手を確認すると、それをポケットにしまった。


「出ないの?」

「うん」

「誰?」

「由佳。」

「女じゃん。女バスのだろ? 何で出ないんだよ」


 橋本は若干眉間にシワを寄せて。


「いや、なんか……面倒臭くて」

「お、お前……」


 山下はごくりと息を呑んだ。


「サイコパスだ……」


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