【180万PV感謝】機械仕掛けの乙女戦線 〜乙女ロボゲーのやたら強いモブパイロットなんだが、人の心がないラスボス呼ばわりされることになった〜
第99話 宇宙艦隊戦、或いは大軍の主、またの名をホワイト・スノウ戦役
第99話 宇宙艦隊戦、或いは大軍の主、またの名をホワイト・スノウ戦役
ここで宙間艦隊戦について論ずるとして――果たして一体どれだけの人間がそれに明晰であろうか。
宙間艦隊戦においては、まず一点地球と異なる条件が存在している。
即ちは、球形の大地の上で争わぬが故の『見通し距離』の増大。
海上にせよ、空中にせよ、地球というものの地形的な特性によって電波の照射距離というのが限られる。
視界を遮る水平線や地平線の存在からも分かるように、地球においてはその球体である大地が障害となり、その向こうにある物体の目視や電子的な監視というのを極めて困難にしている。
これへの対処としてはせり立った艦橋などによって地表から高さを確保することで視界を遠方へと広げるというものが挙げられるが――……宇宙には、そんな工夫は必要ない。そも大地が存在しない。
故にデブリなどの障害物が存在しない限り、それは、遮られることなくどこまでも敵の察知を可能としてしまうフィールドとなる。
ただ――これも電波に詳しい者がいれば、知るだろう。
真空で電波は減衰しない。理論的には、どこまでもそれは飛んでいく。
だとしても――宇宙空間には低密度ながら水素原子が飛んでおり、それが多少は電波を減衰させるという事実が一つ。
そしてもう一つは実に単純に、電磁波というものが放射と同時に拡散して進んでいくということだ。
つまり、距離が離れれば離れるだけ大幅に電波の密度が低下してしまって、必然的にその反射波は有意なエネルギーを持たなくなる。いくら遮るものなく無限遠に届くとしても、返ってくるその電波が微細過ぎていては結局のところ探知として有効ではなくなる。
つまり、障害物の有無や大気及びそこに含まれる水分の不存在によって地上よりも索敵距離が広がってなおも、レーダーの索敵には距離限界があるのだ。
纏めよう――まずこの星歴において、ガンジリウムの力場を利用した推進機構により宇宙戦艦同士の撃ち合いがようやく現実味を帯びてきたところにおいて、それでもセオリーというのは変わらない。
如何に敵に攻撃されずに敵を攻撃するか。
やはり、遠間から一方的に敵を殴り付けることこそが至上である。人がその素手から――槍を携え、石を投じ、矢を得て、銃を手にし、ミサイルを編み出したというそのときから何も変わりない。
あとは如何にしてそれを実現するかに尽きよう。
故に、
「【
「【
艦長たるシュヴァーベン特務大佐の声に合わせて、艦隊を作った巡洋母艦の牽引する六角コンテナから次々に展開される不気味な黒き卵。
眼球じみた砲撃孔を持つそれが、あたかも浮遊機雷めいて宙域に展開されていく。
それ自体の力場を利用して自律稼働しつつ、その制圧空域に接近した者へとブレードめいて力場で覆われたプラズマを投射する制圧型の無人兵器だ。
宇宙艦隊戦は、あの【
故にまだ人類は、それに十分成熟しているとは呼べないだろう。仮に三年間――それを研究していたとしても。
だとしても、明かされていることはある。
――一つ。
ガンジリウムを利用したステルス塗料を用いたところで戦艦規模の存在は隠蔽しきれず、未だに電波による探索が有効であるという点。
――二つ。
プラズマライフルやプラズマブレード或いは増設ブースターにより運動エネルギーを上乗せした攻撃などの例外を除き、基本的には通常の機動戦闘を想定しているアーセナル・コマンドの火器では、航空要塞艦の持つ《
――三つ。
艦隊同士の距離が離れれば離れるほど射角の違いというのが歴然として現れてしまい、その状態のままではいくら偏差射撃を行ったところで命中率が極めて低下する点。
故に――。
現時点での通例の宇宙艦隊戦においての基本は、『敵の力場を喰い破るほどの超大型ミサイルによる射撃』と『その観測誘導手』という形態を取る。
つまり、母艦から大型ミサイルを放ち、アーセナル・コマンドを敵母艦までのミサイルの
それは即ち、そんな誘導役を如何にして早急に撃破するか――そして誘導役を砕かれないかという、そんな戦いとなってくる。
「強襲猟兵隊を出せ」
「強襲猟兵隊――出撃ッ」
シュヴァーベン特務大佐の指示に従い、各母艦からコマンド・レイヴンが次々に出撃していく。
防空兵器のみならず、直援を行う機体。そして敵への襲撃及び索敵を行う機体だ。
だが未だそれは、艦から遠く離れては行こうとしない。
群れを作る
それも当然だろう。
宇宙は広大であり、如何に鋼の巨人であるアーセナル・コマンドといえども常軌を逸した加速を行わない限りはその広大な領域を自在に駆け巡ることは不可能だ。
初撃にて敵対処の方向を誤ってしまえば、艦隊は何の防御もなく一方的に攻撃を受けることとなる。
特に互いの電波を受けぬような遠間からの攻撃を仕掛ける――というのであれば、なおさらその遅れは致命を招くことに繋がろう。
あとは単純、如何にして敵を確認するかであるが……
「宇宙軍からは?」
「有意なデータは確認できないと……」
「フン。意趣返しのつもりか? それとも、奴らはチャフの躱し方すら知らぬのか?」
B7R周辺の
それが意味するのは三つだろう。
一点が、敵母艦が主航路から大きく外れた場所に位置取っていること。
二点目が、ガンジリウム・チャフなどの敵の電波的な欺瞞によって沈黙させられていること。
三点目は、漂っている前大戦のデブリなどを敵が隠れ蓑にしていること。
そして今、艦隊左舷前方のそう遠く離れていない――無論それは艦隊としての尺度だが――にも障害物として十分なデブリが漂う地点もある。そんな暗礁海域がある。
通例、宙間工場などの輸送が重要となる拠点との航路について、このような宇宙海賊のねぐらになりかねぬデブリは取り除かれて然るべきであるが……よほどの宇宙軍や業者の怠慢か。
否、それよりも明確に【
宙間デブリでの試験飛行のため――と銘打つことで。
「どうしますか? 敵艦索敵用のドローンスプレッドミサイルを至急――」
「必要ない。コイツらは、どうも母艦を戦闘に出す気はないらしい」
また、例の、不気味な笑顔。
しゃぶり尽くすようなそれのまま、シュヴァーベン特務大佐が天井の一方向を眺めると同時に警報が鳴った。
ロック警報。
デブリとの逆方向、右舷前方より接近する敵ミサイルによる電波の照射である。
だが――
「捨て置け」
「は?」
「典型的な方角誤認だ。【
「は!」
母艦から予め切り離した超大型ミサイルを遠隔にて起動して攻撃――母艦の方角を偽装するという、典型的な撹乱戦法。
大戦時に、彼にも幾度と覚えがあるものだった。
それは、アーク・フォートレスという強大すぎる敵を如何にして倒すかを考案した
だが、とシュヴァーベン特務大佐は内心で首を振る。
軍隊とテロリストの違いとはなんだろうか?
それが常に彼が内心で掲げ続けている問いかけであり、そして、彼の生涯が生み出した答えだ。
果たして――……。
暗黒の彼方から猛然と飛来する超大型ミサイルが、アーセナル・コマンドに積載するのと同じ大電力ジェネレーターを搭載した超大型ミサイルが、ネブラ級駆逐母艦『プルウィア』の迎撃ミサイルと対空レールガンの砲撃により爆発四散し――――断末魔の悲鳴めいてその身に蓄えた流体ガンジリウムへと通電し不可視の衝撃波を放つのと同時に、索敵機からの報告が上がった。
「っ、デブリより敵機出現――中核隊に対艦パイルバンカー確認! 敵速度、二二三〇オーバー! 接敵まで三〇〇秒!」
「寡兵らしい戦い方だな」
敵アーセナル・コマンドがその背に背負った大型ブースターじみた大掛かりな射出装置。対艦パイルバンカー。ガンジリウム弾頭を超高速で射出することで敵艦の力場を貫き――装甲へと突き立てる杭を放つ決戦兵器。
それは杭であり、そして、アンテナだ。
即ちは別に有する大型の電磁投射装置からその杭目掛けて大電流を投射し――突き立てた杭を通じて敵艦内部に有する流体ガンジリウムへと通電。
敵艦の推進と装甲を成り立たせるその流体金属と力場を以って敵を討つという、悪魔的な破壊兵器だ。
一部の常軌を逸した
「死兵か。……何とも涙ぐましいな」
醜悪と呼んでいい悪魔的な微笑みのまま、独りごちる火傷顔の特務大佐。
ミサイル攻撃がセオリーと言ったが、それはあくまでも通例に過ぎない。
安全性と言うならば、母艦の位置を一切晒す攻撃など行うことなく発艦させたアーセナル・コマンドに対艦攻撃を行わせればいいだけのことだ。
パイルバンカーなどのそれらの装備は、そんな思想の元に作られている。
無論、そんなものは鴨打ち同然だ。先に制空権を確保しておかなければ通常のアーセナル・コマンドに殺されるような、あまりにも悲しい巨砲でしかない。
だからこそ――
「艦長、迎撃隊を――」
「これも囮だろう」
「ッ、左舷前上方! 右舷後下方に反応確認! 距離は――」
「フン、飽和火力による攻撃とは……少なくとも基本は理解している指揮官か」
呟くシュヴァーベン特務大佐の活きた左目の先に示された、ホログラム戦場ヴィジョン上に出現した――新たなる赤い光点。新たなる超大型ミサイル反応。
レーダーに探知されると同時に、それは、迎撃の対象となる。
先程までと同様、対空迎撃ミサイルによる爆破対処がなされようとしたまさにその時――――敵ミサイルへと迫っていた対空ミサイルが爆発四散。
ミサイルから放たれたプラズマ砲によって、哀れ迎撃ミサイルの側が次々と撃ち落とされていく。
【
プラズマブレード同然のプラズマ砲を発射するその兵器は、防衛兵器であり攻撃兵器として最上だ。
空域に予め浮遊機雷めいて漂わせればアーセナル・コマンドすらも制圧する空中砲台となり、敵軍目掛けてミサイルブースターで運搬すれば母艦の力場も貫くプラズマ砲を撃ち続けて殲滅する。おまけに、敵の対空迎撃へも自動で対処しつつ、その周囲への索敵データを友軍に共有するという――目玉であり、鉾であり、盾である実におそるべき代物。
前大戦の開発兵器の内、何が最も恐ろしい兵器であるかと問われれば――シュヴァーベン特務大佐はこれを挙げるだろう。アーセナル・コマンドなどよりもよほど恐ろしい殲滅兵器だと。
「……流石は、薄汚い
母艦から予め複数方向へと切り離し、遠隔起動を行ったミサイル兵器。
こちらの力場を間借りするように、その《
そして艦隊の進路や移動範囲、更にはアーセナル・コマンドの飛行区域をも封じ切り敵の頭に蓋をするようなプラズマ兵装搭載無人機。
それら三点をガンジリウム・チャフやデブリ遮蔽利用によりこちらの艦隊に近付けた上での飽和火力攻撃――なるほど実に恐ろしい攻撃であるのだろう。
だが――
「フン、生憎と研究済みだ」
軍帽の下の火傷顔の壮年の男は、そう呟き、頬を釣り上げた。
軍隊とテロリストの違いとはなんだろうか?
そんな彼の与える命題への、解答が示されようとしていた。
「『トニトルス』『テンペスタス』は左右に航路を取れ! 本艦とは進路をまま! 『プルウィア』は降下! 『ローラティア』は後方警戒し、こちらの【
「『トニトルス』左回頭! 『テンペスタス』右回頭! 『プルウィア』降下! 【
「コマンド・レイヴン隊を作戦空域右方に出せ! 敵の目を潰してやれ!」
「スイープ隊! 進路一・一・〇、敵中継兵器の捜索と撃滅を実行せよ!」
互いの母艦が直接的なレーダー探知範囲内にないということは、必ずその索敵情報の中継装置がいずれかの地点に存在しているということだ。
それさえ潰せば、敵母艦からの攻撃は自律航法装置に頼ったミサイルしか存在しなくなる。
同時に――シュヴァーベン特務大佐は獰猛に目を歪める。
【
故に、敵の行ったこの、【
だが――
「照準を共有させろ! 撃ち落とすぞ!」
「『トニトルス』、『プルウィア』! トリガーリンク! 対空レーザー照射!」
軍隊とテロリストの違いとはなんだろうか?
それは、対策できることだ。演習できることだ。研究できることだ。研鑽できることだ。
無論、テロリストにもそれは可能だろう。
だが――国家という圧倒的な多頭竜の力を背景にはできない。膨大な人口を背にした資本や、高度な専門性による分析や、豊富な供給による過不足ない訓練や、多岐なる連携性に基づいた発展性は持たない。
国家こそが――――国家こそが唯一、それを可能とする。
「時代遅れの戦法など、焼き尽くしてやれ!」
幾度と撃ち落とした機体、或いは接収したデータに基づく研究。それにより、既に解析は行われた。
確かに【
だが、アーセナル・コマンド同様に力場を以って浮遊する或いはプラズマの圧縮を行うという関係上、その兵器は大型のジェネレーターを必要としている。
そしてプラズマの源になる弾体と、それを力場で覆って撃ち出すための弾核。更には自律稼働・自律迎撃を可能とするための各種のセンサー類やその制御統制装置を内在しており、黒い球形の空飛ぶ目玉のようなそれの中は精密機器で溢れている。
そして、これらの流体ガンジリウムを有する機体に共通であるが――いずれも熱変化に弱い。
特にプラズマという高温の弾体での攻撃を行うという関係上――……。
更には大気に熱放射ができぬ真空の宇宙という関係上、それはなおのこと強くなる。
故に――敵に破壊を与えるためには長時間の照射が必要でありアーセナル・コマンドなどの高速物体への迎撃は現実的ではない対空レーザーであっても、その撃破は可能となる。
いや、
「敵機健在!」
それでも、まだ、破壊には遠い。
高速で接近する飛翔体の、更に敵正面プラズマ展開のブリルアン振動によるレーザー防御を避けるためにその機体側面を狙う照射では、十分な破壊を引き起こせない。
だが――火傷顔の男は大いに頷き、そして副官も我が意を得たりと頷き返す。
レーザーでの直接破壊は、未だに困難かもしれない。
そうだとしても、
「あの機体温度では熱・光学センサー類は使い物にならん! アーセナル・コマンドからの直接制御射撃にのみ注意し、迎撃しろ!」
「ECM作動! バーサス隊、我が【
「厄介な砲台から沈めてやれ!」
レーザー反射光の検知計や赤外線の検知計は、一定の低温に保たなければノイズにより十分な動作ができない。
それを利用した無力化と同時に艦隊は回避機動に移る。
万一でも加速度を上乗せした敵アーセナル・コマンド群のレールガン射撃を受けぬように、航路を複雑にした機動と対空射撃を行っていく。
さて……。
軍隊とテロリストの違いとはなんだろうか?
資本が違う。
予算が違う。
技術が違う。
供給が違う。
消費が違う。
革新が違う。
分化が違う。
研究が違う。
研鑽が違う。
対応性が違う。
生産性が違う。
発展性が違う。
専門性が違う。
特化性が違う。
追求性が違う。
即ち――練度が違う。
そこに如何なる脅威があろうとも、対象を分析し、対策を考案し、対応を是正し、対処を制定させるという――それこそが、人類が連綿と受け継いできた種族的な特性。
まさにこれは、人類種そのものと呼んでいい姿であった。
やがて、初撃で機先を制した筈の【
即ち、【フィッチャーの鳥】による反撃の時間だった。
◇ ◆ ◇
そして初撃の奇襲を完全に切り抜けた航空母戦艦『キングストン』以下五隻の艦隊は、敵の電波中継装置や攻撃方法から辿った三角測量めいた探索により敵母艦の位置を特定した。
デブリ処理業者や宙間配送業者の民間宇宙船を武装改造した三隻の急造戦闘宇宙艦は、円盤めいた船体の後部に多数の砲塔を持つ輸送コンテナを引き連れ、それは頭部を茸に寄生され侵食されたムカデの如き醜悪さを持って暗黒の宙域に展開していた。
牽引されている大型コンテナには大戦時のアーク・フォートレスから集積した半ばジャンク品めいた無数の砲台が備え付けられ、さながら旧世紀の
その周囲を働き蜂の如く飛翔する第一・五世代型や第二世代型の混合で作られたアーセナル・コマンド隊は――如何に旧式といえども、その数は脅威という他なかった。
実に五十機以上――……。
空間に霞ができたように、或いはまさに蜂の巣を突かれて迎撃に向かう大雀蜂のように、入れ代わり立ち代わり飛び回っては足を止めた母艦の《
アーセナル・コマンドという兵器は、その《
つまり数を揃えられた場合――特定ターゲットのみを狙い撃ちにできない場合は、途端にその撃破の難易度が上がる。それぞれがそれぞれに向けられた敵からの射線に割り込むように飛び回るそれだけで、複雑な回避機動や連携なくしても撃墜を困難にさせる。
かつてヘンリー・アイアンリングが何とかして一対一の状況を作ろうとしたそのように、まさに、多数とぶつかるということはそれだけで不利を生むのだ。
さて――しかし、その上で言おう。
寡兵での運用こそに向いているのがアーセナル・コマンドという兵器だ。
その成立は単機による敵都市への強襲。
如何にして継続的に敵勢力圏で火力を発揮し続けるか、という点に基づいて再生する装甲じみた《
その後、対:アーセナル・コマンドや対:飽和火力としての急速戦闘機動バトルブーストの実装。
その力が、より、アーセナル・コマンドという兵器の撃墜を困難にした。回避にも攻撃にも使えるその力は、その超常的な速度の緩急は、高度に進化した火器管制装置の自動追尾すらも逃れ――紛れもなく戦場の支配者に足る能力を獲得したのだ。
先に、連携ができずともただ多数を揃えるだけで撃墜を困難にさせると言ったが――それは真実であり、同時に致命的な誤りだ。
超高高度爆撃による戦闘可能人員の不足に伴い、どんな人間でも戦闘者として数えられるように感覚的な操縦を可能とした――
だが、そんな風に味方が多数入り乱れてしまった状態では――慣性無視に等しいほどの予測をさせない急速戦闘機動は、同じく味方にも予測ができないことを意味する。
そんな中で多数の頭数を揃えてしまえば、機体同士の衝突を引き起こすだろう。そんな悲劇を避けようと思えば、つまり、第二世代型にて実装したバトルブーストという長所がそのまま全く使用不可能となってしまうのだ。
故に第三世代型のコンセプトというのは、単純である。第二世代型や第二・五世代型によって高速化した戦場における最適解。
つまり、アーセナル・コマンドという兵器が多数機での運用というのには向かぬが故に――だからこそ『プラズマ兵器等の大電力消費兵器と《
故に、世界は、より寡兵での運用を前提とした。
それがアーセナル・コマンドという兵器の本質なのだと、そんな進化の方向へ認定した。
……さて。長くなったが、話の要点を伝えよう。
そんな中で大軍を大軍として運用できると他者から評されているということは――一体如何ほど優れていることを意味するだろうか?
「……艦長、コマンド・リンクスを投入しますか?」
まさに【
アーセナル・コマンドに関しては、ランチェスターの第二法則で示される戦力比が数の二乗に相当するどころか数の三乗に等しいであろうことを、彼らは経験的に知っている。その観点に従えば、第二世代型とてまるで油断できぬものだと。
だが、シュヴァーベン特務大佐は首を振った。
「あくまで本命は【
戦力の温存。
最大火力や最高火力を一息に用いない戦力の制限。
最新鋭の高性能量産機を戦線に投入しないばかりか、更に、シュヴァーベン特務大佐は部下に命じてコマンド・レイヴンの半数を艦隊の防護に戻した。
これも【
……さて。
戦力の逐次投入は愚策――という言葉があるが、一つの戦例をとって他の全てに当て嵌めることこそが最も愚かである。
失敗した逐次投入が愚策なのであり、成功した逐次投入は上策である。
ならば、成功した逐次投入を何と呼ぶのか。
それは――――波状攻撃と呼ぶのだ。
「スイープ隊――一、三番隊は左右にブレイク。二、四番隊は味方展開と後続侵攻を掩護。五、六番隊は貫徹力を維持して中央突破せよ。バーサス隊も同様に続け!」
シュヴァーベン特務大佐、そしてその副官の指示に従って各小隊や各分隊の編隊長機が呼応。
彼ら同士で細かく連携を通信しあい、無秩序に飛び交う大雀蜂を狙う黒鳥じみた果断なる機動で艦隊の頭を抑えにかかった。
そして、
「駆逐艦『ローラティア』『プルウィア』は拡散小型ミサイルを広域に射出! 味方照準に共同させ、敵アーセナル・コマンドを制圧せよ!」
指示が飛ぶ。
「巡洋艦『トニトルス』『テンペスタス』は味方の射線離脱を確認後、敵中央へと電磁投射主砲を発射! 敵艦隊への圧力を維持! 奴らの注意をこちらに惹きつけろ! ひと所に注目をさせるな! 攻撃隊の掩護となる!」
更に指示が飛ぶ。
「以後、攻撃隊は役割をローテーションしハラスメント攻撃を続行、敵の頭を抑えることを旨としろ。各小隊は互いに進路の連携を十分に行え! くれぐれも貴様ら同士の無様な玉突き事故など見せるなよ! クリスマスの見世物はもう過ぎたのだ!」
その言葉通りに、まさに、渦が生まれる。波状攻撃の渦が生まれる。
運動エネルギーを上乗せした突破掃射と、敵を面制圧する牽制砲火。そして敵の照準と注意を引く左右離脱と、そこに撃ち込まれる楔めいた主砲のハラスメント。
離脱機はその機動を以って敵の視線を引いて揺るがせるかのごとく浮き足立たせ、かと思えば離脱した者たちが即座にまた突撃の輪に加わって追撃する。
回転だ。或いは潮流だ。
突破役、牽制役、離脱役、金槌役を一切の無駄や陰りなく流麗に行い、さながら空域に二つの逆回転する黒い渦が生まれたかの如くに敵の群れを打ち払っていく。押し退けていく。押し潰していく。引き裂いていく。
何たる芸術的な連携攻撃機動か。
一朝一夕では決して成り立たぬ戦闘機動だった。
断じて即興で行われる戦闘機動ではなかった。
誰か突出した天才が作り上げた芸術ではなかった。
それは、綿密なる訓練と協調の末に生まれた戦闘芸術だった。
「武力だと? 武勇だと? そんなもの、旧世紀に置いてこい……野蛮人ども! ここは厳然たる鉄と火の法理の世界だ。貴様ら遺物に――生きる場所などないッ!」
艦内で、シュヴァーベン特務大佐の檄が飛ぶ。
「いいか、フニャチンの童貞ども! これがこの部隊初の実戦だ! カマホモを誘うように情けなく尻を振るんじゃない! 苦難の日々を、訓練の日々を思い返せ! また頬で土を味わいたいか! 無様に尺取虫になりたいか! 娘や嫁に尻穴を晒すオカマ野郎になりたいのか!」
指示が不要と判断して、その男は火傷顔の残る左目を見開いた。
「いいか、敵は演習もままならぬ惨めなテロリストだ! 便所の隅に隠れた便所虫の親戚だ! こんなものに撃墜される奴は末代までの恥だ! その不抜けた尻とツラに便器のボディペイントを刻んでやる! 撃ち落とされる貴様らは情けないホモの腰抜け以下のクズ畜生だ!」
そのレイシズムやマチズムを隠そうとしない物言いを、しかし、止める者は誰もいない。
知っているのだ。
大軍を大軍として運用するためには、何が必要か。
それは大軍を大軍とさせるための訓練であり、その訓練を滞りなく終わらせる計画であり、そして訓練の反省を吸い上げる部隊風土であり、そんな訓練を存分に実行可能なほどに上から予算を取る辣腕である。
更に実戦において訓練同様の練度で行動を可能とするための行動計画であり、輸送計画であり、補給計画であり、兵站計画であり、それらの手配手腕だ。
ヒト、カネ、モノを必要なときに必要な分だけを取ってくるという――そんな実に単純にして困難なことを滞りなく実行させるからこそ、彼は大軍を大軍として運用できる男なのだ。
故に、
「貴様らは【フィッチャーの鳥】だ! 選抜者だ! 宇宙クズを追い払った連盟軍の中の最強だ! つまりは、地上最強の部隊だ! ――存分に擦り潰せ、番犬ども!」
その不躾がすぎる勇ましい物言いすら、兵への存分な鼓舞となって顕現する。
それは苛烈な部隊であり、選民意識を持った部隊であり、そしてそれを行うに足るほどの文字通りのエリート部隊としての姿であった。
そんな鼓舞の直後、不気味なほどの無表情へと戻ったシュヴァーベン特務大佐は、更に続けた。
「奴らの誘いに乗ってやる……迅速ではなく、着実に削り殺せ! 臆病者の【
【
超高高度爆撃により高級将校の大半が死亡し、そして戦後に政府の官僚機構のために引き抜かれたという状況下においてなおも、これほどまでに問題にあふれる人格というのを加味してなおも軍が手放したがらない人材。
それが、コルベス・シュヴァーベン特務大佐という男であった。
◇ ◆ ◇
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