■12 急接近!

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きみは最高に魅力的な女性だ――いつしかステフは、そう口にするカイの腕に抱かれていた。

唇が重なり、やがてふたりはたがいを激しく求め合う。


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「わたし、小さいころ、妖精のお友だちがいたの」

「え?」

 カイがぽかんとした顔をしたので、ステフは小さく笑った。

「この話をすると、たいていの人はそういう顔をする。でもね、ほんとうなの。もちろんわたしは彼女を〝ティンカー・ベル〟って呼んで、夜、よく一緒に遊んでいた」

 カイは黙ってステフの話に聞き入った。

「わたしがティンカー・ベルと楽しく遊んだり、おしゃべりしたりするものだから、まわりのおとなたちは、まあかわいらしい、とか、将来は大女優ね、なんていいながら、ほほえましく見守っていた。わたしとしては本気で彼女と遊んでいたわけだけど、おとなからすれば、子どもながらに演技をしているようにしか見えなかったのね」

 ステフは当時を思いだし、くすりと笑った。

「ティンカー・ベルとお別れしたのがいつのことだったか……いまとなっては記憶があいまいだけど、でも、彼女が幼いわたしの遊び相手だったことはまちがいない。世の中には、そういう存在がいるのよ、まちがいなく。だから、あなたの話も信じられる」

「そうか」

 カイはくくっと笑ったが、けっしてバカにした笑いではなかった。

「でも、けっきょく女優にはならなかったんだな?」

「一度は目ざしたの。でも、あきらめた。自分には向いていなかったみたい」

「たしかに女優は美人ならだれでもなれるってものじゃないだろうし、向き不向きもあるだろうな」

「そうね」

「なんにしても、アイラの話を信じてくれて、うれしいよ。それにあの晩、宮殿でノアを交えて話し合った晩、伝説を重んじる島民の味方についてくれたことも、うれしかった」

 ステフはカイの方にぐっと身を乗りだした。

「わたし、この島の大切な伝統を守りつつ、観光で島を裕福にする方法が、きっと見つかると思うの。そうすれば、みんなが楽しいでしょう? みんなが笑顔になれるでしょう? わたしはみんなが笑顔になれるような、そんなリゾートをつくりたいの。わたしを襲おうとしたあの若者たちだって、ちゃんとした教育の機会を与えられていたら、あんなふうに道を踏み外したりしなかったかもしれない。観光で島を潤して、万人に必要な教育を与える。その一方で、島の伝統をきちんと守り通す。それって、不可能なことじゃないと思うの」

 カイはしばらくステフをまじまじと見つめていたが、やがて片方の口角をきゅっと持ち上げた。

 その表情があまりにセクシーだったので、ステフは胸を突かれたような衝撃をおぼえた。

「カイ……」

「きみは、顔が美しいだけじゃなくて、心も美しいんだな。いや、純粋というべきか。アメリカ人の中にも、これほど純な人がいるとは思わなかった」

「ありがとう。そういわれると、なんだかうれしい。でも……」

 ステフはうつむいた。

「わたし、昔から甘えっ子で、ちやほやされて生きてきた。人がわたしに抱くイメージは、いつまでたってもそこ止まり。いつまでたっても、一人前と思ってもらえない。それがすごく悔しかった。でも、わかったの。わたし、やっぱりいまだにお遊び気分の抜けない甘えっ子だって。ミズ・DDがいなければ、ろくに仕事もできないハート家のお嬢さまにすぎないって」

 ひざに涙がひと粒こぼれ落ちたのに気づき、ステフは自分でも驚いた。

「あ……ごめんなさい。こんな話しちゃって」

 ステフはあわてて涙をぬぐい、照れ笑いを浮かべた。

「きみがどういう人間なのか、当然ながら、詳しくは知らない」

 カイがステフをまっすぐ見つめていった。

「だけど、きみが心やさしく、純粋な人であることは、まちがいない」

 ステフはぼうっとした顔でカイを見つめていた。

「それに、美しくて、最高に魅力的な女性であることも」

 カイの手がのびてきて、ステフの頬をさすった。

 ステフはその手に自分の手を重ねた。大きく温かな手だ。もっと温もりを味わいたくなり、彼の手から腕へと、てのひらをすべらせた。

「カイ……」

「きみは……ほんとうに……すてきな人だ」

 いつのまにか、ステフはカイの大きな胸に抱かれていた。顔を上げると、すぐ目の前に、堅く引き締まったカイの唇があった。

 その唇が、どんどん近づいてくる……

 唇が重なったとたん、ステフの全身に電気が走った。

 しばらくは、たがいの唇を軽く味わうような、ついばむようなキスをくり返していた。しかししだいに、それが激しく、深くなっていく。

 カイの手がステフの背中から腰、そして尻へといったん下がったあと、ゆっくりと上に戻り、豊かな胸をやさしく包みこんだ。やがてその頂点を、服の上からそっと指でつまみはじめる。

「あ……」

 ステフは、下腹がずんっと重くなるのを感じた。

「カイ……」

 ふたりは唇を貪り合いながら砂地に横になった。カイがステフにのしかかり、片手でステフの胸から尻までを、くり返しさすりはじめる。やがてカイはステフの上半身をわずかに持ち上げると、ワンピースのファスナーを一気に引き下ろした。

 まずは右肩、そして左肩と、ステフの白く美しい肌を露わにしていく。その肌に口づけし、ときに舌を使いながら、丹念に味わいはじめた。そうしながら、もう片方の手で巧みにブラジャーのホックを外し、ほのかに赤みがさした胸をむき出しにした。

「きれいだ……」

 いったん顔を上げたカイは、ステフの胸から顔に視線を移動させつつ、やわらかな頂点を愛撫しはじめた。

「あっ……」

 信じられないほどの快感が走った。いままで、胸を愛撫されてこんなふうに感じたことはなかった。自分がどうにかなってしまいそうで恐ろしい反面、もっと先に進んでほしくてたまらなくなる。

 カイがぴんと張ったステフの乳首を口にふくんだ。

「あっ!」

 胸の頂点から下半身、さらに足の指先までが、しびれていく。

 カイは口のなかで舌を巧みに動かしている。

「カイ……」

 ステフは下半身をカイの太ももになすりつけはじめた。早く、早く……。

 カイの左手がステフの腹をなでつつ、するすると下がっていき、やがて脚のあいだに到達した。パンティの上から、ふくらんで敏感になった箇所をそっとつつきはじめる。

「あっ、だめ、カイ!」

 ステフは耐えきれず、カイの両頬を両手ではさみ、その唇に激しく食らいついた。彼の舌を何度も何度も吸いこもうとする。

 と、カイの手がパンティのなかに忍びこんできた。

「!」

 カイの指先の動きから自分の潤いぐあいを知ったステフは、信じられなかった。

 こんなに相手を求め、反応したことなど、いままで一度もなかった。いまは、カイのことがほしくてたまらない。カイが巧みに指を動かすたび、押しよせる快楽の波に飲みこまれそうになる。

 いますぐ、カイに満たしてほしい。

「カイ……早く……」

 その言葉にカイもこらえきれなくなったのか、ステフのパンティを一気に引き下ろし、ズボンをあわただしく脱ぎ捨てると、彼女の脚のあいだにからだを落ち着けた。

「ステフ……」

 カイのからだがぐっと沈みこみ、ステフの中を満たしていった。

「ああっ! カイ!」

 カイがゆっくりと、しかし力強く、リズムを刻みはじめた。それに合わせて、ステフも腰を突き上げる。

 あまりの快感に、ステフはわれを忘れて声を上げていた。

「カイ! カイ!」

「ステフ……もう……だめだ」

 いきなりカイの腰のリズムが速まった。ステフはなされるがまま、快楽の崖っぷちへと追いこまれていった。

「カイ!」

「ステフ!」

 ふたりは同時に極みに達した。やがてカイの体重をずっしり感じたステフは、えもいわれぬ幸福感に包まれた。

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