■05 助けて!
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ほてったからだを冷やすため、ひとり夜の散歩に出かけるステフ。
ところがいきなり目の前に現れた男たちに車に押しこまれ、人里離れた小屋に連れこまれてしまう。
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「――だろ?」
「え?」
ステフは、はっとわれに返った。
「あ、ごめんなさい。いま、なにかいった?」
ノアが一瞬、ふざけたようにまゆをよせたあと、にこやかにいった。
「なかなかの迫力だっただろ?」
「え、ええ……ほんとうに……」
ステフは、あいからわず胸をどきどきいわせていた。からだじゅうが妙にほてっている。
いわゆるファイヤーダンスなら、過去にも見たことがあった。しかし先ほどのような衝撃を受けた記憶はない。
ステージの間近で見たからだろうか? それとも、ダンサーが、あのカイだったから?
燃えさかる棒を激しくふりまわしながら、足を踏み鳴らし、雄叫びを上げ、挑むような視線を突き刺してきたカイ。あの姿が、頭から離れない。
彼はステージからわたしを威嚇していたのだろうか? さっさとアメリカに帰れ、と?
でも……。
威嚇にしては、あまりにも……セクシーだった……。
そうよ――ステフははたと気づいた――こんなふうに胸がどきどきしているのは、カイがあまりにセクシーだったから。
って、なにいってるの、わたしったら!?
あの人は開発反対派グループのリーダーなのよ。いわば、敵みたいなもの。そんな男に惑わされてどうするの?
でも……。
「なにか食べないかい? まだビールしか飲んでないだろ?」
ノアが声をかけてきた。
「……そうね」
ステフはメニューから料理を選ぶことに意識を集中させようとした。
そろそろ帰ろうとなったとき、ステフはノアに先に帰っていてほしいと告げた。
「ちょっとひとりで散歩したいの。まだそんなに遅い時間じゃないし、マルルは治安がいいことで有名だから」
ノアが心配そうな顔をした。
「たしかに治安は悪くないが、ぜったい安全ともかぎらない。よかったら、僕もつき合うよ」
「いえ、いいの、だいじょうぶ。だって、ほら」
そういって、にぎやかな通りを指さした。
「あんなに人も出ているし、宮殿は歩いてもさほど遠くないでしょ?」
本音をいえば、マルル到着からずっとノアにエスコートされていることに、少々息苦しさを感じはじめていた。食事のあいだ、ショーで受けた衝撃から立ち直りたいと思う反面、その余韻に浸りたいと思う気持ちもあった。ところがノアがのべつ話しかけてくるものだから、それも思うようにできなかった。
「すぐに帰るから、心配しないで」
ステフはそういうと、ノアにくるりと背を向け、すたすたと海岸通りを歩きはじめた。
「ほんとうに気をつけて! ひとけのないところに行っちゃだめだよ!」
ステフは背中を向けたまま手だけふってみせた。
「ふぅ……」
しばらく歩くうちに先ほどの動揺もおさまり、満足したステフは歩道に設置されたベンチに腰を下ろした。やはり、ひとりになって正解だった。ほてったからだも、心地よい潮風が冷ましてくれる。
あたりには人通りも街灯も多く、安心してくつろげそうだ。目の前のビーチでギターをつま弾く若者もいれば、手をつないで通りをのんびり散歩する老夫婦もいる。波打ち際では、若い娘のグループがきゃっきゃとはしゃいでいた。
「ほんとうに、いいところ……」
ステフはひとりつぶやいた。
海は美しく、食事は美味で、町は安全、王族は親切、そしてステージにはセクシーなダンサー……。
ステフは思わず頭をふった。
考えることがちがうでしょ!
仕事仕事、仕事のことを考えなさい。
反対派も納得してくれる開発方法って、あるのだろうか? ノアは、島民のほとんどは開発に賛成だといっていたけれど……。DDくらい優秀な人なら、平和的な解決法をなにか思いついてくれそうなものなのに……。
ステフはふと、今朝から自分がDDを無視しっぱなしだったことに思いいたった。
わたし、まるで子どもじゃないの。こんなふうでは、子ども扱いされてもしかたがない。
宮殿に戻って、DDに謝罪し、きちんと話をしよう。
そうよ、いままで、DDと腹を割って話をしたことなんて、なかったかも? わたしが一人前になりたいこと、本気で仕事に取り組むつもりであることを、素直に訴えるべきかもしれない。そうすれば、無益な衝突は避けられるはず……。
ステフはすっくと立ち上がり、宮殿に戻ることにした。
「ええと、宮殿はこっちの方角だから……」
それまで歩いてきた広い海岸通りを戻った方が安全なのはわかっていたが、すぐ左手からのびる路地を進む方が、どう考えてもかなりの近道だった。
ステフは路地の先に目をこらしてみた。人影は見あたらず、暗がりになってはいたものの、大通りからほんの少し入っただけの場所なので、万が一なにかあっても大声を出せばなんとかなるだろう。
ステフは思い切って路地に入り、足早に進んだ。
しかし、あともう少しでふたたび大きな通りに出るというところで、うしろからいきなり声をかけられ、ステフは飛び上がらんばかりに驚いた。
「これはこれは、アメリカのねえちゃんじゃねえか」
「え?」
がたいの大きな男がひとり、立っていた。にやにやしながらステフを見つめている。
「あ、ごめんなさい、わたし、急ぐので」
そういって走り去ろうと前をふり返ったところで、なにかに勢いよくぶつかった。
「そんなに急いで逃げるこたぁないだろ?」
ぶつかったのは、べつの男の胸板だった。と、どこに潜んでいたのか、両わきからまたふたり、ぬっと男が現れた。
「なあ、ちょっとつき合ってくれよ、アメリカのねえちゃん」
男がそういって、ステフの腕をぎゅっとつかんだ。
「やめ――!」
背後にいた男がステフの口をふさぎ、腕をつかんだ男と一緒に彼女のからだを軽々と持ち上げた。
「んぐぐぐぐっ!」
「ほら、急げ!」
男たちはステフを連れて建物のあいだを抜け、またべつの暗い路地に入ると、そこに駐めてあった車にステフを抱えたまま乗りこんだ。
残りのふたりの男が運転席と助手席にすべりこみ、勢いよく車を発進させた。
「へへへっ! やったぜ!」
「ひゃっほー!」
男のひとりがステフの胸をむんずとつかんだ。
「おー、なかなかの巨乳じゃねえか」
「そりゃ楽しみだ。たっぷりかわいがってやるからな」
もうひとりの男がステフの露わになった太ももを荒々しくなでまわす。
「やっ、やめてっ! 助けて!」
口をふさいでいた手が離れたところで、ようやくステフは叫び声を上げた。
しかし車が進んでいたのは、人通りのないまっ暗な道だった。叫び声がだれかの耳に届くとは思えない。
10分ほど走ったところで、車が急停止した。バタバタと騒々しくドアから飛び降りた男4人は、ステフを車から引きずりだし、すぐ目の前の小屋に連れこんだ。
小屋の床に放りだされたステフの前に、男たちが立ちはだかった。みな、欲望にまみれた表情を浮かべている。
「だから、さっさと帰れっていっただろ? 親切なアドバイスを無視されちゃ、おれたちだって黙っちゃいられないってことよ」
え?
「だいたい、おれたちの島で金儲けしようなんて考えるから、こんな目に遭うんだぞ」
男のひとりがしゃがみこみ、ステフをなめまわすような視線で見つめた。
この人たち、もしかして、反対派グループの?
「でもまあ、こんな上玉なら、こっちもおいしい思いができるってもんだ」
「おれが最初だ!」
べつの男が、しゃがみこんでいた男を押しのけ、ステフに覆い被さってきた。
「ちょっと! やめなさいっ! やめて! だれかっ! 助けて!」
ステフは男の顔をげんこつで殴りつけた。
「痛っ! くそっ! おい、おまえら、ちゃんと押さえとけよ」
両手両脚を男たちに押さえられ、ステフは身動きが取れなくなった。
覆い被さる男の熱い息が首筋に感じられる。
そんな! 冗談じゃない! いやよっ!! 助けて!
と、いきなり小屋のドアが蹴り開けられ、大柄な男が飛びこんできた。
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