書くきっかけ

いつもなら楽しく本を読んでる筈の時間帯であったのだが、今は携帯を両手に持ちながら「ゔぅんん」と花の女子高生とは思えぬ獣のような唸り声をあげて、ベッドの端から端までコロコロと寝っ転がった。


「ゔぁぁぁあ」


そう。うら若き女子高生から出る声ではない。だが、これがリアルでもある。いつでも清楚な、やまとなでしこをイメージしてはいけない。おっさんみたいな声も時には出てしまうこともある。それが、女子高生の実態であった。


唐突に親友に言われた出来事を思い出し悩みに耽ける。




♢♢♢




「書くって...私が????」


利き手で自分を指しながら言った言葉に、親友は大きく頷きを返す。


「なんで、そんな思考になったの??」


作文でなにかの賞を取ったことないから、文章の才能があるわけない事を親友が知らない筈ないのに、突拍子もない事を言う。


「え~。だって、偶にさ...今日みたいに本が面白かったのに好みとほんの少し違う部分が出てくる...そんな、感想を聞く度に思うんだよね。理想があるなら書いてみれば、いいんじゃない?」


思いもつかなかった事を話す親友に驚いた。


確かに、読みたい話はあるけど...中々そういった話に出会わない。面白いって作品があっても、こういう展開なら良いなって思う時もある。


それでも...。


「書くなんて無理だよ」


趣味が読書だからこそ、沢山の物語に触れていて文字を沢山の追っていたから、文字に対しての拒否反応はないけど...読むのと文字を創り出すのは違うと思ってる。


「そう?出来ると思うんだけどねぇ」


「ムリムリ!そんな、才能なんて私にはないよ」


「え~。待って...!!小説を書いたことあるの?」


「ないけど...」


「だったら、才能が無いなんて最初から決めつけるの可笑しいよ!!」


「んー」


「私、思うんだけど...自分が読みたい小説を読む為には自分で書くしかないと思うよ」


数多の小説の文章で読んできた表現。

そう、私は体験した。

親友が言った言葉は、雷が落ちるような衝撃であった。


「そっかぁ...」


「まぁ、考えてみて」


もうすぐでHRが始まるから、この話はひとまず終わった。


(自分が読みたい小説を読む為には自分で書くしかない...か)


ずっと、その言葉が頭の中で巡っている。いつもなら少しの休み時間で持参した小説を教室で読んでいるのに、珍しく出番を失った本は鞄の中に仕舞われていた。


本を読む気にもなれない位に脳に残る言葉ならば、1回は書いてみてもいいかもしれないと思った。


1番の読書が捗るこの時間に、携帯のメモ機能を開いて小説というものを書くのに挑戦をしてみる。


始まりは、気になるような文章で惹き付けられるような物語が好きだから、自分が惹かれる文章はなんだろうかと脳に沢山の言葉を並び立てる。


「うんうん。こんな感じの...好きだなぁ」


アラームが鳴るのを邪魔そうに完了ボタンを直ぐに押してメモの画面に戻る。


ここまで集中が出来たのは、本に対して興味を持ち、読書が趣味になった切っ掛けの初めて本が面白いと思った時以来である。


その日は、ゆっくりとメモの文字数を増やしていった。


またもや、寝不足で眠そうな顔を隠さないで教室に居る。


「顔がやばいよ」


「もう、眠くて仕方ない」


「また、面白い本があったの?」


「んー」


「なーに、その煮え切らない感じ昨日も言ったけど...小説を書いてみたら?」


親友の言葉にピタッと体が止まった。


「書いたん...だよね」


恥ずかしくなってきて段々と声は小さくなっていく。


「マ?」


「マ」


驚き過ぎて、言葉を省略されていた。「マジ?」よりも「本当?」って聞く方が、本来は親友らしいのに。


驚きから脱出した親友は、徐々に目をキラキラとさせていた。


「見せて?」


「え、やだ」


反射的に否定した。


「けちぃ」


自分の小説を親友に見せるのは、なんとも...別に年齢制限になるような小説を書いた訳じゃないけども、性癖を晒す感じがあって恥ずかしいって感情になるのだ。


「お願い...見たいな~。読ませてぇ」


甘えるようにお願いしても「嫌だ」とバッサリと切る。それでも、一日中......SNSの個人のトークでもしつこくお願いされて最終的には折れてしまった。


小説を書いたメモをコピペして、そのままトークに送る。ありがとうの定番のスタンプを送られてからは、なんの反応も無かった。これは読んでいるのであろう。


ピコン


暫くして、トークの通知。


長文で自分の書いた小説の感想が送られてきた。要約すると「凄く面白かった!あんまり、本を読まない私でも気になって読んじゃったよ!!続きが気になるな~」


お世辞かもしれないけど、自分の書いた小説を褒められるのは、自分の存在の一部が認められたような感じで嬉しかった。ありがとうと返信をして、私が愛用してるハートが沢山散りばめられた可愛いスタンプを送って、凄く嬉しかった事を示す。


2日間、寝不足であった脳を気分が良い状態で久しぶりの休息をとった。


スッキリとした頭で、私の日常の持参した本を読もうとした時に教室に親友が現れた。


「おはようっ!!ごめん、本を読むのちょいとストップ」


「ん?おはよう」


「あのさ、昨日の小説が...本当に面白かった!」


興奮が収まらない異常なテンションだった。


「珍しいね。どんな小説?」


いつも小説よりも漫画の方が好きだった親友がここまで言う小説はなんだろうか?興味で聞いてみたら「嘘でしょ」って顔に書いてある感じで微妙そうな表情。


「本当に言ってるの?」


「え...うん」


「昨日の私の感想文を読んだ?」


「読んだよ。凄く嬉しかった!ありがとう」


嬉しい感情を隠さずに明るく笑顔で言った。


「ここで、天然を晒すな」


なんでやねんみたいなノリで返される。


「えっ?」


「私が面白いと思った小説は、コピペしてくれた小説なの!」


「まさか...私の?」


「うん!!」


激しく大きく頷いていた。


「えと...ありがとう」


ここまで言われると、嬉しいけど少し恥ずかしくなって、照れてしまう。


「本気で面白いと思ったんだからね。お世辞じゃないから」


「ごめん。なんか、実感無くて...本当にありがとう」


「思ったんだけどさ...小説サイトとかで載せない?」


その言葉に、体全体に固まって顔の筋肉もピクリと引き攣りを起こしていた。


「まさかだと思うけど、私の小説を?」


「そう!」


「ムリムリ、絶対に無理」


顔の前に手を振って全力で否定する。

親友は絶賛してくれたけど、知らない人にみせるなんて...。


「どうして?」


「そんなの。恥ずかしいに決まってるじゃん」


「こんなに面白いんだよ。恥ずかしくなんかないって...」


「えぇ」


「投稿するのも簡単だよ。私のオススメはね...ここのなんだけど...」


そこからは、HRが始まる時間のギリギリまで説得された。根性と粘り強さで押し切られてしまったが...それでも、やろうと思ったのは、ここまで絶賛をしてくれる親友に乗せられたからである。

私はなんて単純な人間であろうか。


公開ボタンを押した瞬間に、期待と恥ずかしさという可愛いらしい理由であるのに、それを吐き出す行動は、恋する男子も引いてしまう女子高生らしかぬものであった。

自室で誰も居なくて、このような姿を見られないのが人生最大の幸運かもしれない。

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