私が書く理由
千夜すう
プロローグ
三度の飯よりも本が大好きな人間。
それが私だ。
運動神経が最悪で、頭の出来も悪くて数日前に返された期末のテストも赤点がギリギリで、手先が狂ったかのように不器用で、容姿に優れるものが無く、特別に出来ることがない平凡な何処にでも居る女子高生をやっている。
何も自慢が出来る事がない私は、漫画や小説を読むようになった。誰かの物語に魅入られて素晴らしい登場人物になったような気分を味わう事にハマった。
ドラマは、有名な役者だとバラエティー等で知るその人自身のイメージが付き纏う。
演技が下手な人だった場合、演技の違和感を見つけて物語に集中出来ないから苦手であった。
アニメも漫画も好きだけど...作者から渡される文字だけの情報で、自分の好きなようにイメージが出来る自由度の高さに妄想が捗るだけから小説を好んだ。
1日の中で1番に読書が捗るのは、お風呂から上がって何もすることのない寝る直前までの数時間。
この時間帯は、朝から晩まで1日で少しずつ隙間時間で続きが気になるのを葛藤しながら読み進めていったのを、何にも邪魔されることなく一気に読めるからお気に入りの時間である。
部屋の明るさは完全に暗くせずに温かみのあるオレンジ色の小さな豆電球。ベットの台に置いてある明るい電気スタンドを頼りに、寝っ転がりながら本を読む。
1つページをめくる。
あぁ、なんて幸福な時間だろうと噛み締めながら物語に集中した。
ピピピッ
他の部屋には聞こえない程度の音量だけど、この部屋の中では妬ましく存在感を放つ音の原因は私の携帯からだった。
過去に、読むのに夢中で気がつけば朝になっていた。学校がある日なんて最悪な1日で授業中は眠たくて仕方なかった。体育の授業は倒れそうだったし、古典の授業なんて寝かせにきていた。
そんな苦々しい経験から携帯のアラーム機能を活用した。
今回読んでいる物語は分厚かった。この時間内で読み終えれなかった事が口惜しい。この本を買う時からビビッと予感していた。あらすじを読んだ時から好みの物語かもしれないと...。
朝の時点で、作者の文章のセンスに物語の世界に惹き込まれていた。
「うそっ...。もう、そんな時間?」
物語の盛り上がる寸前の胸の高鳴りが収まらなくて集中をしてたい所だった。まだ、読んでいたい...それでも非常に鳴る携帯のアラームに葛藤する。
徹夜で明日の授業を乗り切れるだろうか...?それか、少しだけ仮眠をして朝早くにこの物語を読むのもあり...いや、無しだな。そもそも、この気になった状態で寝れない...っ!!
「今日だけ...」
この今だけをどれくらい重ねるのだろうか。
煩く鳴り続ける携帯を手に取って、完了のボタンを押して鳴り止ませた。
私を阻む物はない。
♢♢♢
「ふゎ~ぁ」
ダルそうに腕を枕にして机にうつ伏せになる。
「おはよ!!デッカイあくび。喉が見えるくらいよ」
「えっ、うそ」
物凄く仲が良くて親友と呼べる人物から言われた言葉に、慌てて条件反射で手で口を抑えるが、既にしてしまったことに意味がないのだ。
「喉は見れなかったけど、デカいあくびには変わりないかな」
「おはよっ。うぅ...恥ずかしぃ。」
「また、本に夢中になって寝なかったでしょ?」
流石は親友である。私の事を知ってらっしる。
「うん」
「へぇー。最近じゃ、やらかさなかったのに...そんなに面白かったの?」
「まぁ...うん。面白かった...よ」
「その割には、そのテンションじゃないやん」
偽りなく、物語は面白かった。
ココ最近で1番の当たりの作品で、読み終わったばかりなのに既に読み返したいと思う作品であった。
ただ.........。
「面白かったんだよ!!面白いのは間違いないんだ。だけど...」
「だけど?」
続きを促すように私の言葉尻を繰り返された。
「ラストがね...」
「ラストが気に入らなかったの?」
「うーん。それはそれで、面白いんだけど...こう、なんていうの?読み進めていく内にラストはこんな感じが良かったなって...勝手に想像してたら全然違ってて......あっでもねっ!!そのラストが神的に素晴らしいのは間違いないのよ!!」
私の必死さを止める感じで
「分かった。分かったって!!物語のラストが神的に面白いけど、違うラストも見たかった的な?」
「あ~そうそう!」
「ふーむ」
「どうした?いきなりのキャラチェン」
考えてますよってポーズをする親友はコントをしてるように見える。
「私、前から思ってたんだけど...物語を書けば?」
「...はあぁぁぁぁぁ?」
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