第6話 真実
絶望に打ちひしがれていても何も始まらない。何もしないという選択肢は、俺にとってさらに虚しさを沸き立たせる結果となった。
どんよりとし始めた島。
彼女の最後の言葉が胸を抉る。
俺はこの幸せに浸っていて、それ以上のことを蔑ろにしていた。そう言えば、想良と最後に話したのっていつだったか。
「俺って、独りよがりなんだな。ほんとに。」
ここは孤島。林の中を進めば小さな集落が存在する。そこにいる人々は少しずつ着実に減っていた。
物静かに木々が揺れる。
まるでその集落の雰囲気を揶揄するかのようにゆったりと穏やかな、それでいておぞましい音をたてて。
その流れに身を委ねれば、俺は風に吹かれて吹き消えそうだ。そうなってもいいかと、ふんわりとした土をふんわりと踏んで、木に凭れかかった。
周りが霧に包まれていく。
白い霧は俺を強く包んでいく。
それと同時に、微細なそれらが抜け落ちた記憶を伝えていく。記憶喪失の俺に、その抜けた記憶が戻っていく。
そうか。俺、とっくに──。
死んでいたんだ。
六月二十四日。
あの時の俺は交通事故によって死んだんだ。真夜中のことだった。俺に気づかなかった車に撥ねられて死んだんだ。
全ての真相が流れ込んできた。
死んだ俺はこの島に送られたんだ。
この島は天国でも地獄でもない、死後に送られる場所。それもこの島は六月二十四日当日に亡くなった者のみが送られる島だった。
この島では人間は何れ空っぽとなる。記憶はもちろん、人間としての意志もない。空っぽとなった人間は輪廻転生の原料となるようだ。
遅かれ早かれ空っぽになる運命。
そんな運命なら、せめて最後は想良と気持ちを共にしていたかったな。
後悔を垂らしても何もならない。
どうせ俺も、霧に拐われ、器にされるのだから。
重くなっていく身体。
ああ、重いな。
「もし生まれ変わったら、想良の生まれ変わりと一緒になれますように。そして、俺の生まれ変わりが想良を一生愛しますように──。」
神に願いを込めた。
そんな願いを込めながら、俺はこの島にさよならを告げた。六月二十四日が永遠にループする死者の島に。
もう目の前は暗闇──。
────。
────。
────。
──。
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