第5話 怠慢
何でだろうか。島が明るく見える。
どんよりとした霧に包まれてたはずの島が、今では透き通る視界と成り果てている。
見えなかったものが見えてくる。
何でこんな簡単な所に娯楽が落ちていることに気づかなかったのだろう。
物はなくならない。次の日になると何故か必ず元通りだ。それを利用すれば無限に物作りができる。ただし、次の日には作品も消えてしまうが。
昼は釣りをして美味しい魚を釣る。そして、夜には俺の釣った魚と想良の拾った木の実でご馳走を作る。その後は、二人きりで愛を確かめる。
意味の無い探索に付き合わされる日もある。
それでも俺は幸せな日々を過ごしていった。
「あそこの裏坂さん、消えちまったらしいだよ」
変わらない毎日が繰り返される中で、島内の人は徐々に、着実に消えていた。しかし、遺体はなく、まるで神隠しにでもあったかのように消えるようだ。
原因は不明。その故、俺は謎の解明することにも精を出していた。
もう一年は経っただろうか。
何も変わらない日々が続いていた。
少し霧が出てきた。ちょっと退屈になってきた。
いつも通りに魚を持って帰ってくる。
彼女は無言でそれを受け取った。
そう言えば、いつから彼女は無口で大人しいお淑やかな女性になったのだろうか。どこか虚しい表情で魚を見つめている。
そんな時に、久しぶりに彼女は口を開いた。
懐かしいような気がした。
「六月二十四日。」
それは俺がここに降り立った日。
「ある女が自殺した。親も友達も、誰も構ってくれなかったから。彼女は孤独だったんだ。」
それが何を意味しているのか、俺には分からなかった。
それ以降、彼女が口を開こうとすることはなかった。
明くる日の朝。
想良は消えた。
島内を探し回っても見つけることはできなかった。絶望感だけが胸に溜まっていった。
「なあ、あんた。」
重々しいこの島で、おばあさんが話しかけてきた。心なしにか冷たく「何だ?」と言い放った。
「気持ち、察するよ。辛いだろう。あたしゃ、あんたに伝言があるんだ。」
よく見たら、おばあさんもまた俺と同じ表情だった。
「想良ちゃん。白い霧に包まれて消えてったのよ。消えるのが分かっとったんか、その際に、近くにいたあたしに伝言を頼んできたんや。」
「伝言……ですか。」
「そうよ。想良は、『寂しかった』と。それで『私は消えるけど、楓真のことが心から好きだから、来世ではまた結ばれることを神に願ってる。もし巡り会えたら、その時は、ちゃんと私のことをもっと愛してね』とな。」
俺は泣いていた。
人前で泣いていた。
きっと理性と心が別になっているんだ。悲しみに明け暮れてしまう。
俺の心は、ようやく泣き止んだ。空を見上げれば相変わらず夜空が綺麗だった。
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