第4話 磁石
瞼を挟んで明るさが届く。
怠い体を起こす。横を見ると草の布団は抜け殻になっていた。
俺は思わず走り出していた。どこに向かえばも分からない。なのに、俺は走っていた。そして本能的に海辺にたどり着いた。
「おはよう。今日も海が綺麗だね。」
襲い来る安堵感。
たった数分の出来事なのに一日分の疲労が襲ってきたみたいだ。
それでも太陽は落ちるどころか昇る。
「今日もさ、島を探索しようよ。今度は島の中を、ね。」
俺らは探索を開始した。
今度は御年寄に出会いまくる。その度に俺らは歓迎され、冷やかされ、無視された。そして彼らはみんな「記憶を失ってるみたいだね。」
探索はその日で終わらずに何日間か続いた。
島内にいるのは俺ら以外はみなお年寄りであり、記憶を失ってることがより確実になった。
そして、七月七日。七夕の日だ。
いつものように夜になる。
空には天の川が美しく見えるはずだと思い空を見上げる。隣で想良も顔を上へと向かせる。だが、天の川は出ていなかった。
俺にはずっと企画していたことがあった。告白だ。実際は違うが、体感的には一年間も一緒にいた気がしている。
時間に連れて高まる愛情。この何も無い世界で、嫌になるほど時間を共にした。この体感一年という時間が確実に恋心を強く抱かせた。
「ねぇ、想良さん。」
「どうしたの?」
「その……。」
言葉、躓く。せっかく用意した言葉を全て落としてしまった。それでも、そこで倒れてる訳にはいかなかった。出てきた言葉は準備も何もない単純な言葉だった。
「俺と付き合ってください。」
夜空が映えている。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺らは赤い糸で繋がれるようになった。
天の川は出ていない。つまり、俺らは離れ離れになることはないということだ。
それから約二週間後、夜空が綺麗な夜に、俺は告白した。今度は「結婚」の告白だ。そして、その告白は付き合う時のと同じシンプルなもので、結果も同じ単純なものだった。
俺らは絡まるように結ばれた。
「結婚記念日は七月二十四だな。」
「あのね。私、思うんだけど。」
ん、と顔を向ける。
「今日、もしかしたら七月二十四日じゃないかも知れない。」
「えっ、どういうこと。」
「きっとこの日も六月二十四日だと思うの。」
「ん? 本当にどういうこと?」
「ごめん。やっぱりなんでもない。」
想良はそこで口を固く結んだ。
磁石のようにくっついた俺ら。
幸せな日々は長く続いた。
そしてこれからも。
相変わらず天の川なんて出ない星空が綺麗な夜空だった。
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