第3話 寂恋

 重い瞼とどんよりした空気。

 眠気に甘えてたけど、もう眠気はなくなった。冴えた頭で周りを見渡す。そこにはただの朝空が広がっていた。

 この島はほとんどの場所で自由に振る舞える。集った老人達もきっと何しても許してくれそうだ。

 本当にここには居場所がないな──。

 彼らのコミュニティに入る気が向かない。

 朝日は優しさをもって残酷に昇っていく。

 いつしか朝は次の昼に移変わろうとしていた。

 楽しみだな──。

 浮かれた心で例の場所へと向かう。

「やっぱり来てくれた。会いたかったよ。」

 優しい微笑みを投げかけられた。

 それだけで心が浄化されていく。

「俺も会いたかった。」

 打ちひしがれる波の音が騒がしい。

「ねぇ、この島を探索しない?」

「うん。いいね。俺もこの島がどうなってたのか気になってたんだ。」

 嘘だ。この島は見尽くした。それ程に暇だったのだ。隈無く探索した。

 それでも彼女と一緒なら、と口に虚ろを混ぜた。

 二人で歩く緑。相変わらずくだらない色で描かれた島なのに、この時だけは有名アーティストが描いた絵が広がっているように見え始めた。

「ほう。あんた、恋人ができたかね?」

「違いますよ。」

 ふと会うおばあさんのひやかし。俺は顔を真っ赤にして言い訳した。

 まだ恋人じゃない。そして心の中ではこの''まだ''を消したい自分がいる。

「楽しけりゃなんでもいいわな。」

 おばあさんはすたすたと行ってしまった。

 取り残された俺らはさっきの通り、二人で探索を再開させた。

 反対側の海岸へとたどり着いた頃には青色だった海は橙色に燃えていた。

「綺麗だね。」

「そうね。まさか、こんな綺麗な景色を見られるなんてね。」

 たわいない会話。

 ふと小さく呟かれた追加文。しかし、ボソボソという音しか聞こえなかった。


「そうだ。一緒に寝ていいかな。私さ、寝る所もなかったんだよね。」


 波を見ながら放たれた一言。その言葉に心舞った。しかし、良心が邪魔をした。

「えっ。けど、男と寝るなんて本当にいいの? 大丈夫か?」

 現実を突きつける。俺も間抜けでも非道でもない。良心が言葉を放つ。

 ここは無人島。家なんてものはない。簡易的に作った寝床で寝るしかない。雨も降らず虫もいないため難なく過ごせているだけの何も無い無人島だ。

「いいよ。どうせ私はとっくの昔にすててるからね。」

 何をすてているのか。そんなこと聞けなかった。

 静けさが甚だしい暗闇の中。

 俺と彼女はすぐ近くで夢の中へと落ちていった。その夜はまるで無音のようだった。

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