第2話 霧光

「もし良かったら一緒にお茶しませんか。」

 一気に頭が冴えていくのが分かる。胸の高まりとともに、その変化した心と体に興奮しそうだ。

 少し年下ぐらいだろう。

 待ち望んでた話しやすい年齢の近さと、予想してなかった見た目のタイプ。嬉しがらずにはいられない。

 コップに水を入れ、砂浜へと持っていく。

 白く光る太陽にうたれながら座る彼女。

「どうぞ。」と水を手渡す。

 それを受け取り、細く小さな声を出して優しく微笑んだ。それだけでも俺の体は喜んでいる。

「私は想良っていいます。乙川想良。せっかく出会えたので仲良くしませんか。」

「うん。俺は楓真。よろしくね。後、タメで話し合わない。」

 「おっかわ そら」。彼女の上の名前に羨ましい感情が芽生えては消えた。二日目でようやく思い出した「ふま」という名前。上の名前を早く思い出したいと思うばかりだ。

「はい。ではタメ口で話しますね。」

「全然タメになってないじゃん。」

 頬を赤くしているのがくっきりと見える。

 靄一つない透き通る天気で良かったなと強く思う。

「ごめんなさ……ごめん。」

「まあ、あんま気にしないで。ただ、そっちの方が気楽だと思っただけだから。」

 振り返ればお世辞にも良い第一印象となる言動ではないだろう。しかし、俺は振り返りもせずにただ淡々と本能に従い言葉を繰り出していた。

「そうだ。想良さんはさ、いつ頃ここに来たの。」

「私は、さっき来たばかり……かな。どうして。」

「見かけない顔だったからさ。俺は三日目になるんだけど、一通り島を巡ってたらおじちゃんおばちゃんしかいなくてなぁ。気軽に話せそうですっごく嬉しいんだよ。」

 隣で優しく微笑んでいる。

 そこからくだらない雑話で盛り上がる。

 目の前には砂浜と映える太陽を反射する海。それを二人で眺めながら口元を緩めていく。

 楽しい話にも翳りが出始めた。

「はーあ。早く記憶戻らないかなぁ。想良さんも、そう思うよね。」

「記憶は、戻らない方がいいと思うよ。」

「えっ。」

 バツの悪そうな口元。

 砂浜に靄が出てきた。太陽の光が霧に乱反射して仄かに光る。

「私、欠陥品なの。きっと相応の報いなの。」

 それ以上、踏み込むことはできなかった。

 霧で有耶無耶にしか見えなくなった輪郭。

「今日は楽しかった。また会いませんか。」

 波の打ちひしがれてる音とその冷たい声。

「また、明日の太陽が真上にきた頃。この砂浜で──。」

 その姿は霧とともに消えていった。

 愉しさと、虚しさと、不思議さと、なんとも言えない感触が胸の中を支配する。

 いつの間にか日は暮れて、四日目を迎え準備期間に入っていたことに、俺はようやく気付いた。

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