六月二十四日 ~超絶少子高齢化の孤島~
ふるなる
第1話 孤島
六月二十七日。
透き通る海に囲まれた島を探索すること三日。俺はこの島を探索し終えた。
ここは孤島。林の中を進めば小さな集落が存在する。そこにいる人々はみな、俺を除けば、還暦を終えた猛者しかいなかった。
物静かに木々が揺れる。
まるでその集落の雰囲気を揶揄するかのようにゆったりと穏やかな音をたてて。
その流れに身を委ねれば、俺は風に吹かれて吹き消えそうだ。そうならないよう、ふんわりとした土を強く踏みしめた。
「おー。さかちゃん。今日も釣りに行っとったんかー。さかちゃんは、釣りが好きだなー。」
俺はさかちゃんじゃねぇし──。
そんなこと言っても無意味だ。きっと意識の核には届かない。彼の中には昔の記憶と現実が重なり認知的に問題が起きている。
だからこそ。記憶がないことなんて、彼にとっては些細なことでしかない。
「楓真くん。戻ってきたかー。酒はねぇが、駄弁ろうか。」
お年寄り男性陣が笑いながら手を振っていた。
直近の記憶はないが、現役までの記憶は鮮明に憶えている。現役時代の記憶は重圧な経験となって、愉快な話を繰り広げていく。
同じく記憶がなく、ただし確かな経験もない俺にはついていけなかった。
「すみません。もう少し周りを歩いてきます。」
「そうかー。そりゃ、残念だなー。じゃあ、わしらだけでも駄弁ろうか。」
俺は彼らに背を向け歩いた。
背中から聞こえる声。彼らは他愛ない野球と麻雀の話で大きく盛り上がる。
俺にはついていけんな──。
木々で影になった木陰へと身を隠す。
この島にいる住人は皆お年寄りだった。そして、みんな直近の記憶を失っていた。もちろん俺も例外ではなかった。
なぜ俺らはこんな孤島にいるのか。
なんでここはこんなにも殺風景なのか。
どうして俺らは記憶を失っているのか。
疑問は止まない。不安は止まらない。段々と心が狭まっていく。
誰もその気持ちに心から共感してくれる奴はここにはいない。
みんな高齢。独自の世界観で暮らしている。
幸せそうな奴らも。一人過去の絶望に明け暮れる奴も。誰も俺とは相容れない。
ここはまるで無人島みたいだ──。
辛い──。
木陰に倒れ、細い木にもたれかかる。
額を膝につけて無心になる。
爽やかな木々のさざめきが音色を奏でる。不自然な穏やかさと無色透明の霧が俺を包んでいく、みたいだ。このまま俺は、誰にも見つけられずに、霧に拐われてしまいそうだ。
「ねぇ、君は何してるの?」
甘くて優しい声。
無情なる霧が吹き飛んでいく。木陰だったそこに昇り降りる太陽が光を当てる。
顔を上げると、そこには年齢が近い目を引く女の子が立っていた。眩しい太陽光で上手く見えなかったせいか、一瞬俺は天使が現れたかと思ってしまった。思わず笑みが溢れた。
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