第84話 勇者レオンと決闘、なんか俺が悪者にされてる

――王都の中央広場。


その日の王都は初夏の空が青く澄んで絹のように光る快晴だった。


中央広場。広場の真ん中には多くの民が見物の為に集まっていた。


「こりゃ……すごい人だな」


王子にして勇者レオンと英雄の俺はとの決闘。公にはリーゼを巡って男と男の戦いとされていた。市民の好奇心は当然だろう。多分、工作済みで必要以上に好奇心を煽るように情報操作されてるな。アリーから聞いた話だと俺がリーゼを性奴隷として購入して、レオンがそれに見るに見かねてという設定だ。まるで俺が悪者だ。


まあ、おおむねあってるんだけどね。


ただ、リーゼが一発ヤラしてくれなかったの。


なんか俺って損してるよね?


まあ、本当の決闘の目的はどちらが真の勇者に相応わしいか? をはっきりさせたいのだろう。俺に勝って市民に力をアピールして真の勇者に近づきたいのだろう。


そして残念ながら市民の大半は王子の思惑通り、レオンの味方のようだった。


「殿下! 頑張ってくださいー!」


「女の子を泣かすヤツなんかに負けないでくださいー!」


「フツメンなんかぶっ飛ばしてー!」


……まあ、王都は殿下のホームグラウンド。これまでのレオン王子の功績がどれほどだったか伺いしれる。もっともアリーの話を聞くと女たらしは王子の方らしい。


まるで悪役のような扱いに閉口するが、それは割り切ってと、思っていると。


「アル、私がついてるからね!」


「アル君! 負けるなー!」


「ご主人様頑張ってーっ!」


「!?」


クリス、アリーとリーゼの声が聞こえる。そうだった、今の俺は一人じゃない。みんながいる。


更に。


「アル殿! 御武運を!」


「我らダンジョンの街の冒険者はあなたの味方です!」


「アルの兄貴! 俺の惚れ込んだ兄貴の力! 見せてください!」


「アル君、私もついてるからね!」


冒険者のみんな。気圧されていた俺は、ほんのひと握りだが、とても心強い声援に送り出されて、闘技会場に足を進めた。


日差しが強い。そして眩しい光の下に佇む王子レオン。


まあ、普通に俺が勝てる相手じゃないけどなんとか勝利しないとリーゼが奪われる。


いや、返品したいのだけど、女の子の目に涙は……


俺、ほんと女の子の涙に弱いよな。


「よく来たね。逃げずに僕と手合わせしてくれることは褒めてあげるよ」


なんか上から目線。


実績から言うと仕方ないか。


だが俺もそこそこ強くなった。殿下相手でもそれなりの闘いはできると思う。


正直、俺には勝ってもメリットがない。


ただ、女の子の涙のためにやるしかないのだ。


全部あのクソ奴隷のおかげだ。


一応俺の婚約者だし、今はリーゼのこと意外と好きだからいいけど。


可愛いもんな。


いかん、ついニヤニヤしてしまった。はっ!? と気がついてクリスの方を見ると。


凄い鋭い目つきで俺を睨んでいた。さすが俺の幼馴染。


俺の考えていることが見透かされている。


「お手柔らかにお願いします。殿下の実力はよくわかっております」


「褒めてあげるよ。惨めに負けることがわかっていても対戦するなんてね」


この王子イケメンだし言葉も温和だけど上から目線が酷い。


「最後に言い残すことはあるか? クズとはいえ、最後の言葉くらい拾ってやろう」


「…………」


酷い上から目線はいいけど、殿下は俺を殺すつもりらしい。普通、決闘で命までのやりとりはしない。昔は命をかけていたが、今はあくまで両者の力の差を見極めるだけだ。そのため、立ち会い人が指名される。この決闘の場合、王子の配下の騎士だ。


つまり、殿下は何があろうとタオルを入れない立ち合い人の元、合法的に俺を殺すつもりなのだ。この王子……クズだ。


「殿下。決闘とあれば、対戦者への敬意を抱き、雑念は捨てて全力を尽くせ――そう魔法学園で教わりました。教師はあなたでした」


「はは……。そんなたてまえを信じているなんてね」


だめだ。この人クズだ。


こんな奴でも、勇者。それに。


殿下は勇者のジョブに恵まれ、既にレベル99、スキルにも恵まれて普通30位のところ100は持っているという噂だ。


勇者という最強のステータスの上、スキルを100も持つチート中のチート。


王子への声援があがる。威風堂々と白銀の鎧を纏い、パッと見た目はあちらの方が見栄えがいい。見た目だけで騙されている観客たちが声援をあげる。


リーゼの為、勝つしかない。


……さあ、決着をつけるか。


俺は剣を抜き放ち、剣を構えると、王子がふっと笑った。


「僕はうさぎを狩るにも全力を尽くす獅子なんだ」


謎の言葉を発すると審判が手をあげ、宣言する。


「これより、第一王子レオン、英雄アルの決闘を始める。双方卑怯な手は禁止とする」


そして決闘の開始を待つ。


「始めぇーーーーー!」


かけ声と同時に、王子は魔法詠唱に入る。身体強化の魔法だろう。


王子の聖なる鎧は絶えず防御結界が張られている。


1体1だと一番厄介な相手だ。


俺も当然身体強化(極大)あたりのスキルを使うべきだろう。


そうしないとダメージが通らない。


だが。


「!」


俺は構わず王子を斬りつけた。


「な……んだとッ!」


王子が驚愕の目で俺を見る。


わかる、わかる。俺もびっくりした。


まさか、無銘の剣で王子の防御結界が破れるとは思わなかった。


代わりに無銘の剣が折れたけど。


どうも貧乏性の俺はセール品の無銘の剣を使っていた。だから……折れた、多分。


剣は折れた。


え?


なんで聖剣使わないのかって?


マグレが起こったら困るだろ?


それに王都自体が吹っ飛びそうな気がする。


王子を見ると驚いて魔法詠唱を中断していた。神級魔法は3節の呪文詠唱が必要。


つまり。


殴りに行こう。


俺は素で王子に近づくと、ぐーで王子を殴った。


「な、え? ちょ――っ! うぽぉぉぉぉぉお!!!」


王子は奇声を発すると、空高く飛んで行った。


綺麗な青い空。飛んでいる王子。


「……え?」


「……は?」


「……へ?」


さっきまで王子を応援していた王都の観客たちが、急にシーンとなる。


「ば、馬鹿なっ……!」


大声で怒鳴る審判。


「あ、ありえんない……? 魔法もスキルも使わず、勇者である殿下を? あり得ない……!!!」


審判はブルブルと震え、狼狽していた。

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