第85話 あれ? 勇者レオンが弱いんだけど?

「うぽうぽうぽうぽうぽうぽぽぽぽぽぽ……!」


空を飛ぶ王子はせっかくの経験を堪能せず、情けない悲鳴とともに落下して来た。


ドカンッ!!


地面に落ちて、やはり大きな穴を大の字に作り深い穴に落ち込んでいた。


死んでたら、さすがにちょっとな。


嫌なヤツだけど一国の王子。死んだりしたら困る。


だが。


さすがに勇者。


「ぐ……ゆ、油断したよ……!」


王子はしぶとかった。穴をジリジリと上がってくる。


貞子みたいで怖いでち。


そうか、勇者は光魔法の治癒魔法が使える。詠唱破棄か無詠唱でとっさに治癒して、意外とダメージはないのだろう。 


だが、王子は激怒していた。


「ふ、ふざけるな! なんだいまの外道の魔法は?」


いや、ただ素で殴っただけだけど。それに外道ってちょっと酷くないか?


身体強化(大)


俺はこのチャンスにスキルを発動していた。


王子の呪文詠唱が間に合わなければ、効果がある筈。


不知火流刀剣術


紫電一閃


『陽炎』


俺の放った剣戟が王子の胴を捉えたかに見えた。


「聖なる剣よ!」


王子がどうも王家伝来の聖なる剣の力を解放したようだ。


剣と剣がぶつかり合う。当然、弱いほうが圧し負ける。


王子の持つ聖剣は力を解放すると10分は身体強化100倍、剣には聖なる属性が付与される。


俺が使っている剣、いや刀は以前俺が作り変えた日の元の技法で作ったやつだ。


俺の身体強化魔法はかなりの威力のはずだ。だが圧し負けた。


俺の剣戟は弾かれて、王子の聖剣が俺の首を狙って来る。


思わずバックステップで逃げる。


「残念だったな! 外道の技さえ使わなければ、僕の敵ではない!」


「それはどうでしょうか? 王子は剣の扱いをわかっていない」


「何?」


ブラフではない。王子は剣のことなんて全然わかっていない。


ただ、ジョブに恵まれ、ステータスやスキルに恵まれただけ。そこに努力や進化はなかった。


だから。


「殿下、バカの一つ覚えの力任せの剣戟にこのただの鋼の刀で勝たせてもらいます」


「気でも触れたか? 僕の聖剣や鎧のことをわかっていないのか? 鋼の刀で僕を凌駕すると? 戯けたことを! 天地がひっくり返ってもありえないよ!」


「なら、天地をひっくり返してあげますよ。鋼の刀だけで」


「……笑止」


まずは剣戟で王子の聖剣を折るか。


王子の剣戟はまるでなっていない。


あんな強度に任せた受けじゃ例え聖剣でも折れる。


不知火流刀剣術


紫電一閃


『不知火』


身体強化魔法に瞬歩のスキルを発動して王子の懐に入る。


不知火流刀剣術最大の奥義。


世界最強の抜刀術。


その刀を王子の聖剣に振るう。


「無駄無駄無駄無駄ぁ!!」


しかし、王子の剣はあっさり俺のただの鋼の剣に折られ、いや斬られた。


「な! ば、馬鹿な!」


「殿下。あなたは恵まれすぎていたんです。もっと剣術を学んでいたら俺に勝機はなかったです。例え最強強度の聖剣でも、鈍い太刀筋だとただの鋼の剣に負けるのです」


王子の顔が羞恥で引き攣る。俺の刀が本当にただの鋼の刀と理解出来たが故に。


「どうせ、卑怯な魔道具か何かの力を借りたんだろう。私の勇者の魔法の最終形を見せてやろう。見たことはないだろう。冥土の土産に見せてやる。それがせめてもの情けだ。彼我の差を思い知れ!」


「なら、俺は普通の魔法であなたに勝ってみせる!」


「まったく、真の強者がわからんと見える」


まあ、そうだな。王子は確かに強い。確かにな。それは確かなことだ。


だが、この王子は凄まじいステータスやスキルにあぐらをかいて進化の止まった者。


抜き去るのは容易い。


こいつは弱い。それがわかった。


俺は魔法の手本を見せてやることにした。


真の魔法の在り方を。それを王子に教えてやろう。ジョブに恵まれなかったからこそ考えることができる境地。冒険者のみなもそうだった。


だから、この王子にわからせる必要がある。彼がどれだけ怠惰だったのかを。


「光あれ 、地は混沌であって、闇が深淵の面にあり……水によって生まれる」


「神が心を尽くして神を愛する時 過去の罪は赦され……水によって生まれる」


最後の一節が全く同じ魔法。だが俺のは上級魔法をアレンジしたもの、王子のは神級魔法。


今の俺には魔法の全てがわかる。


師匠の家で読んだ古代書の魔法の知識はただの生活魔法でさえ絶大な威力を持つ魔法へと昇華できる。


「『氷晶の刑戮【ネーレーイデス・ブリリアント……!?】』」


王子の魔法が先に完成し、光球が俺に向かって放たれる。


それを迎撃する俺の魔法。


「どうだ卑怯者!! お前は防御だけで精一杯だろう!」


「いや……これくらい……たいしたことないです」


俺は魔法の光球の一つを1/10にして迎撃していた。


「王子、それがあなたの全力なのか? 遠慮なく打ち込んでいいですよ」


「は?」


いくらなんでも勇者である王子の全力とは思えなかった。


「ふっ……はったりか。そこまで言うなら、僕の本気を見せてあげる!


『氷晶の刑戮【ネーレーイデス・ブリリアント……!?】』!! 」


それまでより大きな光球が俺に向かって突き進む。


ようやく本気を出したか、ならばこっちも。


「燃え盛れ水の火よ! 【ハイドロ・エクスプロージョン!!】」


俺の魔法の光球は真っすぐ王子の光球を迎撃……する筈だった。


あれ?


なんか、王子の魔法を吸収したような。


迎撃のため、やや上方に打ち出された魔法は王子を吹っ飛ばして、見当ハズレの近くの山に着弾する。


「あ……」


……シーン


突然、観客たちが静まり変える。何故なら。


王子は例のごとく、空高く、クルクル空を飛んでいる。


そして、地響きを上げて、一つの山が大爆発を起こしていた。いや、俺の魔法があたったのだ。


火山のように大爆発を起こし、黒煙を吐きだし、山の三分目あたりが空に飛んでいる。


観客たちは遠く見える大爆発を起こして飛んでいる山を見て、あれだけ熱烈な応援をしていたにも関わらず、シンと静まり返った。そして――気が付き始める。


「お……おい、なんか今、魔法で山一つ吹き飛ばしてなかったか?」


「もしかして勇者って、めちゃくちゃ弱いんじゃねえ?」


「い、いや。俺には相手の英雄アルがでたらめに強すぎるだけに思える」


「マ……マジかお前、本気で言ってんのかよ……相手は勇者だぞ?」


そして、王子が空をクルクルと周りながら、ドスンと落ちる。


王子の後ろの方の山が落ちて来て、山が天地逆さになっている。


それを見て半泣きだった。


だが、勘違いをしてもらっては困る。


「殿下、勘違いしないで頂きたい。今のは魔法の当たり所が良かっただけです」


「「「「「「「「「「「「「どんな当たり所だよ」」」」」」」」」」」」」


何故か見物客数万人に突っ込まれる。


「「「「「「「「「「「「「ほんとに天地を逆さにするな!!」」」」」」」」」」


更に追い打ち。

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