第56話 猫耳族の里へ

あれからナディヤはみるみると回復して行った。


そして故郷へと帰って行った。


故郷では教会の回復術士として働くようだ。


ナディヤの聖女の力は以前より落ちている。


でも、普通の回復術士としてなら教会で貢献できる。


ああ、ナディヤと一緒に行きたかったな。


クリスがいなければな。


クリスどっか行ってくんないかな。


できればアリーとリーゼもどこかに返品したい。


☆☆☆


「じゃ、猫耳族の里に穢れをはらう秘薬があるんですか?」


「ああ、以前立ち寄った時に聞いた。まあ、気休めなのかもしれんがの」


師匠はナディヤの身体の穢れをはらう秘薬があることを教えてくれた。


身体の穢れは消えて、元の聖女の力は取り戻せる。


「身体の穢れは消えても、心の傷跡は消せんがの」


「師匠、ありがとうございます。それでも少しでもナディヤのためになるなら」


「ちょうど猫耳族の知り合いから助けて欲しいという文が来てな。それで思い出した。猫耳族を救えば、礼に秘薬をわけてくれるじゃろう」


こうして俺達は猫耳族の里へ向かうことにした。


でも師匠とはこの街でお別れだ。


師匠は引きこもりなだけでなく、魔王だとバレると何かと厄介だから。


「アル君は私のモノですよね、クリスさん?」


「何を言ってるの? アルは幼馴染である私のモノよ」


相変わらずクリスとアリーは剣と短剣で殺し合いに余念がない。


そこでリーゼが一言。


「幼馴染属性は負けヒロインなのです。バッカみたいなのです」


なぜかリーゼもそのまま俺たちについて来た。


アリーがリーゼの実家に話をつけてくれたからいつでも貴族に戻れるはずなのに。


☆☆☆


「こんな雑魚、アル君の手を煩わせることもないよ。私が戦うね」


「リーゼにも任せるのです! ご主人様の手なんて煩わせないのです!」


猫耳族の里は森の奥にある。


今、森の奥へと進んでいるのだが、ゴブリン達と遭遇してしまった。


今頃気がついたけど、アリーとリーゼは同じ冒険者パーティなのに戦ってる処見たことないな。


アリーは剣を抜き放って、勇ましくゴブリンに向かって走り始めた。


リーゼは魔法の詠唱を始める。


そうか、アリーは剣職でリーゼは魔法職か。


初めて知った。


……だが。


とてとてとてアリーが走ると。


ペタン。


アリーは何もない平坦なところで転んだ。


ええっ?


「きゃ! いったいよー! 私のばか~っ! 肝心な時に! やんなっちゃうよ!」


「これは死んだわね」


クリスが他人事みたいに言う。


俺は慌てて剣の柄を持ち、アリーを助けようと……その時!


「フレアアロー!!」


ばふん!!


「やだー! 熱いよー!」


今度はリーゼが魔法を暴走させて爆発を起こし、髪がチリジリになってる。


やだ、この子達、二人ともポンコツでち。


だがその時!!


びぃぃいいん!?


一本の矢がアリーに短剣を突き立てようとしていたゴブリンに命中した。


やべ。アリーの事忘れてた。


「ここはお前達人族が入り込んでいいところじゃない。今すぐ帰れ!」


凛々しい声と共に現れたのは一人の猫耳族の少女だった。


赤い髪に愛らしい顔だち。そしてモフモフの可愛い耳。


ああ、あの耳触りてぇ。


森の茂みの中に隠れていたのは知っていた。


だが、魔物ではないので様子を見ていた。


実際、アリーを助けてくれたし、必ずしも敵じゃないと思う。


「もう一度警告する。ここはお前達人族が入って来ていい場所じゃない」


俺は猫耳族の警告より、この猫耳族の女の子の耳が気になって凝視していた。


「き、貴様! 私の耳を性的な目で見ていたな!」


「いや、君の耳がすごい気になって、ねえ? ちょっと触らしてくんない?」


「な! 猫耳族の耳を触るとか、性的なことだ! 貴様色魔かぁ!」


え? そうなの? いやだって、あのモフモフの可愛い耳、触りてぇ。


「やっぱり貴様、ケモナーだな! 同胞のため、やはりここを通すわけにはいかん!」


ケモナーって何?


「ねえ、ケモナーてなんだ?」


「アル君みたいにね、ああいう猫耳少女を愛してやまない変態の事よ」


「ご主人様キモいのです」


そんな……変態だなんて……


だってあんなにモフモフな耳なんだぞ?


それに俺は気がついてしまった。


猫耳族の女の子にはやっぱりモフモフの尻尾がついていた。


「ねえ、耳だけでなく、そのお尻のモフモフの尻尾も触らしてくんない?」


「な、貴様? それは私に求婚しているのか?」


へ?


何のこと?


「アルぅ! お前は更に浮気相手増やす気? いっぺん死んでみる?」


クリスが怖い顔で俺を睨む。


「アル君、猫耳族にとって耳を触られるのは私達のキスに当たる行為で、尻尾に触りたいというのは求婚の証というか、猫族にとっては性的な行為でもあるのよ。おっぱい揉ませてと言ってるのと変わんないのよ」


知らなかった。俺はただ可愛い子猫の耳とか尻尾に触りたい衝動だったのだが。


「一瞬ときめいてしまったが、やはりお前は猫耳族の敵、ケモナーだな、やはりここを通す訳にはいかん!」


猫耳族の女の子はギリリと次の矢を引き絞り、俺に的を絞っていた。

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