第21話 S級冒険者に絡まれる

女の子が俺に向かって叫ぶけど……。


いや、俺がボコられるの前提で話さないでくれないかな?


そりゃ、俺は見た目陰キャで、強そうには見えないけど。


と思いつつも、勝手に身体が動く。


女の子からのありがたい逃亡へのご指導を賜った瞬間、俺の胸ぐらを掴んでいた男の身体がフワリと舞い上がった。そして、激しく地面に落下する。受け身なんて知らないだろうから、角度は緩いものにしたが。


「なぁ!? てめえ、何しやがった! 卑怯者!?」


「よくも俺達S級冒険者団鋼の誓に喧嘩売ったな!!」


えっ? 卑怯? 別に卑怯じゃないと思う。唯の柔術だよ。むしろ、3対1で普通に喧嘩しようと思う方が卑怯じゃないかな?


「この野郎ただものじゃねえな? お遊びはこのくらいだ。こうなったら! 俺は魔法使い、炎のシュレンだ。魔法の神髄を教えてやろう、てめえを丸焦げにしてやる!」


「えっと?」


俺は困惑した。ここで魔法使うの? 周りに被害でるよ。マジなの? 何とか止めないと。


冒険者は炎の魔法の詠唱を始めた。こんな処で魔法は危険だから、カウンターマジック、封印魔法を唱えた。古文書にあった貴重な魔法の使い方だ。炎に供給する鉱物の術式を水に変更、酸素を窒素に変更する魔法を唱えて相手の魔法にぶつけると魔法は事実上キャンセルされる。


「求めるは、煉獄。荒れ狂う炎の精霊は、その胸を掻かきむしり、その瞳を赤く染める。膨れあがれ炎よ! 加速する炎よ、燃え尽きた灰は、天より注ぐ!!」


詠唱が完成する。しかし、魔法はプスプスプスと小さな炎がちろちろと燃えただけだった。


「えっと、ここでそんな魔法使ったら危ないんじゃないかな? 一応魔法はキャンセルさせてもらったからな」


「てめえ、何しやがった!」


何って……今……説明したのに。


「この野郎ただものじゃねえな? お遊びはこのくらいだ。こうなったら、俺の魔法の神髄、無詠唱魔法の威力を見せてやる!」


「いや、話し合わんか?」


「ふっ……ここまでの魔法を見せる気はなかったんだが、もういい。本当は軽い火傷をさせる程度で許してやる予定だったが……お前には惨めに大火傷をおってもらうことにしよう――《煉獄斬-撃-》!」


魔法使いはそう言って、いきなり無詠唱で炎の魔法を発動し、俺の周りに炎の魔法を展開した。何の魔法か分かんないけどなんか弱そうだな。


「何だこれ? こんなのでどうするつもり?」


俺は自分の周りに炎の魔法が現れ始めたけど、あまりにも威力が弱そうだから、手をバタバタとしてかき消そうとした。だが、


「駄目です! は、早く逃げてください!!」


天使様が悲壮な顔で叫ぶ。……え? 逃けろって言っても、もう炎の魔法は喰らってるけど、そんなに熱くないんだけど?


バタバタしたまま固まってしまった。突然に虚をつかれた。そして、周りの炎が勢い良く燃え盛り始めた。そして、炎は突然青く変色し、俺の体を勢いよく包み込んだ。


「お、お願い!? 生きていてっ!!!」


天使様の叫び声にビックリした。


「えっと? どうしたんだ? そんな大声上げるからびっくりしぞ?」


天使様は、目の前で誰かが殺されそうなみたいな感じで叫び声をあげるから、俺は固まってしまった。流石に抗議する。助けようとしているのに酷くないか?


だが、天使様は信じられないものでも見るように俺を凝視していた。気がつくと例の魔法使いもぽかんという顔をしていた。


「えぇ? あなた、それって……炎の神級魔法なのに?」


俺は自分の身体を包んでいる炎が上級魔法、神級魔法だった事を理解して、ようやく彼女がこんなオーバーリアクションするのかがわかった。


「安心して、大丈夫だよ。俺、師匠の炎の創世級魔法素受けしても平気だから」


「そ、創世級? えぇ? そんな伝説の魔法……いえ、そもそもなんであなたは普通に生きているのですか? 非常識過ぎますよ!」


「いや、非常識って酷くないか? 別にちょっとあったかいだけだぞ?」


「えぇ……?」


彼女は困惑して、意味が分からないとでも言いたげな顔で俺を見る。


「そういえば、いつまで炎に晒されてんだ、俺?」


俺は鬱陶しい生温かい炎を手をバタバタとかき乱して炎を消した。


よし、消えた。


今、夏だぞ。こんな季節に炎の魔法を使うなんて、なんてあくどい魔法使いだ。ちょっと暑くなってきたじゃないか。汗をかいたらどうしてくれるんだ? 俺は肉体派じゃないんだぞ。


「あ……ありえねぇ! 俺の《煉獄斬-撃-》 を手でかき消すのだなんて!! お、お前、伝説の創世級の炎の魔法を無効にする魔道具を付けているな? それ以外に考えられない!!」


「いや、知らん」


変な因縁つけるな。俺はこの魔法使いがちょっと変なので困った。

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