第22話 ちょっとあったかかった
何か、俺が伝説の創世級の魔道具を身に付けているとか、変な因縁をつけて来られて、困惑する。俺はそんなもの身に付けていないけど、別に身に付けていても、何処がいけないのだ? そもそもこの魔法使い、指輪やネックレスをじゃらじゃらたくさんつけているが、多分、魔力をブーストする魔道具だと思う。何で自分は良くて、俺は駄目? おかしい理屈だろ?
「この卑怯者め、それならこれはどうだ!! 《愚風斬-撃-》! 《土撃斬 -撃-》!! 《氷撃 -撃-》!!!」
魔法使いは次々と違う属性の魔法を繰り出してきた。炎のシュレンとかいう二つ名はどうした?
俺は襲い掛かる攻撃魔法を手でバタバタとして振り払った。その後も色々な俺の知らない魔法を仕掛けてくるが、全部人差し指で振り払った。なんか、弱すぎて両手を使う気がしない。
「ハァ……ハァ……な、何なんだコイツ?…………し、仕方ねぇ。これだけは使いたくなかった! 俺の最終奥義! 細胞の一片たりも残らねえから覚悟しろ!!」
いや、細胞の一片も残さないって、怖いぞ。それに、それ唯の殺人だろ!
魔法使いは驚愕の視線で俺を見るが、肩で息をしながら、息も絶え絶え最後の魔法の詠唱を始めた。まるで魔王とでも戦っているかの様な演技だ。どうも最終奥義、この魔法使いの最強の魔法だろう。少しは威力あるのかな? 今までがまるでチワワの全力攻撃みたいだったので、ちょっと期待する。
「求めるは奈落の炎。奈落に巣くう煉獄の魔人、炎を司る餓鬼地獄の魔人よ、炎の神に仕えし炎の管理人よ。魔人エグゾーダスの名において命じる。炎よ! 全てを焼き尽くせ!?」
ちょっと緊張して待つが、何も起きない。あれ? と思い、例の天使様の方を見る。やっぱり、か、可愛いな。金髪に赤い瞳。髪は綺麗で艶やか。正しく天使みたいだ。
でも、彼女の表情はこわばっていた。
どういう事だ? この魔法使いのあまりに大げさなこけおどしに呆れているのかな? でも、実はこの魔法使いが舐めぷしていて、真の力を隠していたらどうしようかな? とも思っていた。
「……そ、そんな!?」
女の子が、絞り出すような声で言った。
へぇ? 俺は周りや上を見たけど、何も無い。だが、天使様は俺の足元を見ていた。それでつられて俺も自分の足元を見た。そこには真っ黒に蠢く炎の魔法陣が描かれていた。
神級の炎の魔法のアレンジバージョンだろう。
素早く鑑定すると、通常の炎の魔法ではなく、鉱物の組成が違う。
炎の温度を上げるのではなく、爆発させる爆裂魔法だな。
「まあ……ビックリしだけど、大丈夫だよ」
俺は天使様に笑顔を向けて、安心するように声をかけた。
足元に出現した漆黒の炎の魔法陣に封印魔法をかける。
炎を司る魔人エグゾーダスへの魔力回路を遮断する魔法を唱える。そして、足に冷気の魔力を込めて、足元の魔法陣をたばこの吸い殻を消すような要領でかき消した。
「……えええええぇ?」
何故か魔法使いが変な声をあげる。そして、。
「……な、ななななっ、なんなのそれぇ! はぁ!? なんで!? なんでどうすればこんな事できるのぉ!?」
魔法使いが呆けた顔をすると、疲れたのか、その場にしゃがみ込んでしまった。
「てめえ、何ものだ? お前、本当に人間か? いや、わかった、お前魔族だな? 今俺達がお前を討伐してやる。人間の仲間には指一本触れさせねぇ!?」
「ええっ!」
お前ら悪者だよな? 俺は絡まれた女の子を助ける善人側のサイドだぞ。それなのにまさかの人類の敵、『魔族』扱い、悪者側にされている。困惑するしかなかった。
「俺様の拳闘術の神髄を見せてやる。必ず、魔族からこの街を救ってみせる」
「いや、俺、魔族じゃないし……」
俺は気が弱いので、段々自信がなくなってきた。こんなにはっきり魔族だと断定されると、もしかしてそうなのかな? とさえ思えてきた。そんな筈はないと思うけど……
でも、そう言えば師匠は魔王だったな。
まずい、自分でも自信がなくなってきた。
自覚なかったけど、もしかして、俺って魔族?
いや、いかんいかん、普通に考えて、こいつらの方が悪人だよな?
「修練士、拳闘術、我の拳は鋼なり、我の身体の源は無限の闘気なり、我が拳は無敵なり!」
「いや、待っていられないかな」
ジョブ『修練士』の拳闘術、武技言語、彼らは言霊に乗せて闘気を取り込み、身体能力を数十倍に引き上げる。待っている馬鹿はいないよな?
俺は素早く修練士に近づくと、デコピンをくらわした。
「うぎゃぁあああああああああああ!? い、痛てぇ痛ぇ~」
「す、すまん。ちゃんと加減はしたんだが」
俺は素直に謝った。そんなに痛がるとは思わなかった。
「ぐ、ぐすん、ち、畜生、父親にだってぶたれた事ないのに…」
修練士は拳で戦う職業にも関わらず、ぶたれた事が無いらしい。ちょっと、驚いた。
「貴様、この卑怯者!? きさま瞬歩のスキルを使ったな?」
「はっ? 使ってないぞ? 普通に近づいてデコピンしただけだ」
「そ、そんな訳がないだろう? 修練士が武技言語を唱えている時は剣士の俺がお前を見張っていた。俺の目をかすめて動くなど、瞬歩のスキルを使ったとしか思えねぇ!」
「い、いや、それ使っても、別に卑怯では無いと思うぞ?」
瞬歩のスキルとは剣や前衛職で役に立つスキルで、移動が瞬間的に早くなる。あるととても役に立つ、俺も持っているが、使っていない。普通に近づいてデコピンしただけだ。
俺が次々とこの不良冒険者に因縁をつけられて困惑しているとようやく助け船が来た。
「あなた達、何をしているのですか? 先程、とんでもない魔力が観測されましたが、まさか街中で、上位魔法を使った人がいるんじゃないでしょうね?」
振り向くと、事務服を着た女性がいた。栗色の髪で、中々の美少女だ。
「やばい、冒険者ギルドの職員だ!?」
「ずらかるぞ、シュレンをおぶれ!?」
冒険者ギルドの職員の職務質問のおかげで、俺はようやくS級冒険者から逃れることができた。
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