第20話 奴隷を買おうと思ったのに

俺は師匠と分かれてダンジョンを抜けた。拍子抜けだったのだけど、師匠のいたダンジョンはFクラスのもっとも難易度の低いダンジョンだった。


ダンジョンに入って、真っ先にラスボス討伐したけど、ホワイトファングだった。


もちろん瞬殺で、ダンジョンは1時間位で攻略、外へ出れた。


俺はすぐに街に向かい、かねてより計画していたことを実行するつもりだ。


師匠は人界に行ったら、まず、信用出来る仲間を探せと言ってた。


コミュ障気味の師匠が言うのだからちょっと、笑いそう。


だけど、仲間の重要性は俺でもわかる。


しかし、信頼できる仲間と言うのはかなり難しい問題だ。


仲間に裏切られた俺にとって、それはとてつも無くハードルが高いことに思えた。


それを解決する方法が一つある。


奴隷だ。


奴隷には隷属の魔法が施される。裏切ることは絶対にない。


俺は修行の際のレベリングで大量の金貨や銀貨を得ていたから、金銭的には問題ない。


そして、購入するのは、戦闘に特化した……奴隷。


ではない。もちろん、綺麗で可愛い性奴隷だ。わかるよね? 俺の気持ち?


女なんて。隷属させて、こき使って、夜は散々俺の相手をさせてやる。


俺の頭には幼馴染のクリスの顔が思い浮かんだ。


俺、クリスへの恨みを性奴隷で発散するということだな。


俺は最低のクズなんだろう。


だけど、クリスや勇者エルヴィン程じゃない。


そんなことを思いながら、メインストリートから、角を曲がり、路地の裏に廻る。


その手の店はメインストリートの裏にある筈だ。


しかし。


「(――ん? なんだ?……)」


俺の目に三人の男女が話しこんでいる姿が見に入った。


一人は、キラキラと輝く金髪を靡かせる清楚で可憐な美少女。


優しそうな顔立ちだが、彼女はどこか儚げだった。


もう一人は、笑顔が絶えず堪えない愛嬌がある愛らしい表情が特徴の幼さをまだ残す美少女。背が低く、守ってあげたくなる小動物系の女の子。


そして最後の一人は、二人とは全く釣り合いがとれない平凡な男。


おかしな釣り合いの三人。


しかし、どうもこの平凡な男を巡って、三角関係が発生しているようだ。


「――いいの、わかってるの。フィンはエルちゃんのことが好きなのよね?」


聞こえてきたのは、可愛らしいが、凛と弓を張り詰めたような声。


俺はうっかり、三人の男女の修羅場に遭遇してしまったようだ。


思わず金髪の女の子に目が吸い込まれる。泣きそうなのに、それをぐっとこらえる女の子。


「ごめん……アリー」


男は平凡な謝罪を口にしていた。


そして、思わずだろう、慰めるために金髪の子の肩に手をかけようとしていた。


だけど、彼女は男からそっと身を引き、目に涙を浮かべている癖に笑を浮かべ、口を開いた。


「そっか、エルちゃんはいい子だもんね。大切にしてあげてね。じゃあ、私は帰るよ――」


「ま、待ってよ! アリー!」


男は女の子を気遣いたいのだろう。だが、彼女は後ろをクルっと向くとこっちに向かって走り出してきた。


一瞬、目線があってしまい、気まずくなる。俺が立ち入っていい場面ではなかった。


それに、彼女は泣いていた。その顔は笑顔なんかじゃなく、険しく醜いものだった。


慌てて後ろを向いてやり過ごすが、彼女は俺のすぐそばを走り過ぎて行った。


一瞬、彼女の顔を見てしまった俺は、なんとも言えない気持ちになった。


残された二人はと言うと、二人は抱き合って泣いていた。


「(悪い奴らじゃないだろうな。人を好きになるとか、そんな簡単な問題じゃない。ここで男が彼女を追いかけたからと言って、何も問題は解決しない、むしろこれが正解だろう……)」


ここにいても仕方がない、そう思った俺は立ち去ろうとその場を後にした。


が。


俺は迷子になってしまい、何故かさっき振られていた金髪の女の子が何人かの粗暴な冒険者から絡まれている場面に遭遇してしまった。


「ねぇねぇ、これから居酒屋へ行かない?」


「君、可愛いねぇ! 一緒に遊ぼうよ、きっと楽しいから!」


「や、止めてください!」


どうも、ナンパにあっているようだ。相手はあからさまにガラが悪い。


彼女は可愛いからこういうことがよくあるだろう。


だが、今はうまくあしらうことができないようだ。


そりゃそうだろう。振られたばかりだもんな。


俺は彼女を助けることにした。


ほおっておけない。さっき、目線があった時の彼女の表情がフラッシュバックする。


「や、止めてください。わ、私、あなた達となんかと遊びたくない!!」


「どうしてダメなの~? 少し位いいじゃん?」


「そんなこと言わないでよ。俺の知り合い、めっちゃイケメンいるんだぜ!」


いや、それだったら、そのイケメン連れて来て、お前は去れよと心の中で突っ込んだ、が。


「や、止めて、お願いですから!」


彼女は本気で嫌がっている。声色からかなり恐怖を感じているのだろう。


「はいはい、ちょっとすいません。その子にはちょっと用事があるんで」


俺はとぼけた口調で間にわって入って、彼女の手を取って連れ出そうとする。


「えっ?」


「な、なんだお前!?」


「ああっ!? お前なぁ!!」


まあ、予想はしていたが、ナンパ師は豹変してガラの悪さを露呈する。


……おぉー怖ぇ。


そんな親の仇みたいな顔で見ないでくれないかな。


絶対、俺、お前らの親に恨まれるようなことしてないぜ。


俺だって面倒ごとは嫌いなんだ。


何よりちびったらどうしてくれる?


「あ、あなたは……」


彼女も突然の乱入者に驚いたようだ。


「この子を見逃してあげてくれないかな? そうしないと困るんだ。俺、目立たない方の男の子だから、荒事はできれば避けたいんだ」


「目立たないのは見ればわかるさ? 荒事避けたいから許してくれ、なんだそれ?」


「聞いた事ないぜ! 助けに来ておいて、何もしないでくれって? 馬鹿か?」


「でも、俺、その子に用があるんだけど……」


俺は彼女の方を見る。彼女は目に涙を浮かべながら目をパチクリさせている。


だが、彼女から出た言葉は意外なモノだった。


「あ、あの、私の為に危ない目にあうのは止めて下さい。気持ちは嬉しいのですけど……」


俺は頭に来た。この子は心根が優しいのだろう、だが、自分がピンチの時にすら相手のことを慈くしむのか? 嘘だ、女はそんなものじゃない。


そう言えば、さっき振られている時も相手の女の子の幸せを願っていた。


「なんだよ。お前、やっぱり関係ないじゃないか!」


「痛い目にあわないうちにさっさと失せろや!」


そう言って、二人のナンパ師は俺との距離を詰めてきた。


「うわぁ……顔がこわ過ぎだよぉ、ママ助けてぇ。」


「お前、さっきから何ナメたこと言ってやがる? 随分と痛い目にあいたいようだなぁ!」


ガラの悪い男が俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。


「だ、だめぇ! 早く逃げてぇ!」


彼女の声が路地裏に響いた。

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