第6話知ったところで何も出来ないから


 セカイを旅することを決めたのは、友人のある言葉だった。


「このセカイは近い将来滅びるだろう」


彼女はそう言って低く笑った。

私はその言葉を信じることができなかった。


「どうしてそう言い切れるんだい?」

「だって私は「見た」からだよ」


彼女の瞳には未来が見えるという。

その瞳に、このセカイの終わりが映ったというのだ。


「何か、助かる方法はないの?」

「あるよ」


そう聞いて、私は安堵した。

しかし、彼女は無表情になった。


「でも、その方法は私達セカイの住人には出来ないことなの」

「それはどういう…」

「そのままの意味よ」


彼女は長い髪を風に靡かせて、私を見た。

嘘を吐いている様には見えなかった。


「セカイを助ける方法は、もうひとつのセカイの住人しか出来ないの」

「そんな…一体どんな方法なんだい?」

私は問うた。

彼女は悲しそうに目を伏せて言った。


「聞いても無駄よ…知ったところで何も出来ないから」

「もしかしたら私にも出来ることがあるかもしれない」

「本当にそう思う?」


私は頷いた。

すると彼女はため息を吐いた。


「そうね…貴女が知りたい気持ちも解るわ。いいでしょう、教えるわ」


彼女は静かに話し始めた。


「このセカイの表側にあるもうひとつのセカイ、その住人がこちら側に来て、世界の最深部にいらっしゃる大いなるお父様のところへ辿り着く。そして、お父様から祝福を受けてこのセカイの新しい管理人にならなくてはならない。管理人はこの裏側のセカイの住人ではなることが出来ない。管理人のチカラでこのセカイを構築しなおせば、滅びることなく助かる…」

「今のセカイの管理人では無理なのかい?」

「出来ないわ…セカイの構築は一度しか出来ない。今の管理人は一度セカイを構築しなおしてるの。」

「じゃあやっぱり表のセカイから誰かを連れてこないといけないのか…」

「そう。解った?貴女にも私にも何も出来ないの。出来ないのよ…」


彼女は唇を噛んだ。

私は暫く考えると、彼女にこう言った。


「私、表のセカイに行く」

「そんなこと出来ないわ!セカイを渡るチカラなんて持っていないのに…」

「それでも、私はこのセカイが滅びるのを見ているだけなんて出来ない。このセカイの何処かに表へ行く道があるはず…必ず見つけ出してみせる!」

「貴女…本気なのね…」


彼女は鋭い瞳でこちらを見た。

私は黙って頷いた。


「そう…ではこれを」


彼女は懐から小さな宝石を取り出した。


「これは表のセカイの宝石よ。もしかしたらセカイを渡る何かがあるかもしれない。持って行って」

「ありがとう。絶対に表のセカイに行って、管理人になってくれる人を見つけるよ」


私は荷物を纏めた。

と言っても、私の部屋にあるのはペンと紐だけだったが。

私は扉に手をかけた。


「じゃあ行ってきます」

「気を付けて。いってらっしゃい」


私は扉を開けると、一歩前へ歩き出した。

自分の部屋を出るのは初めてのことだ。

目の前に広がる風景は、私の心をときめかせた。

ここから始まるのだ、私のセカイを巡る物語が。

必ずセカイを救ってみせる。

私は決意を胸に旅立った。

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