第4話マスク
私が彼女に出会ったのは、セカイの中心部にある大きな部屋だった。
中心部という言い方は間違っているのかもしれない。
このセカイでは端も真ん中も区別などされていない。
だが、私はあえて中心部と記しておく。
なぜならその部屋は、とても広くて華やかで、中心部にあると思わせるほど素晴らしい部屋だったからだ。
こういう部屋を反対のセカイでは「豪邸」と言うのだそうだ。
なるほど、豪邸という響きが実にしっくりくる。
話を戻そう。
その豪邸で一人、くるくると舞いを踊っていたのが彼女だった。
彼女は私の事など気にも留めず、ただ舞を続けていた。
彼女のそんな姿を見ていた私は、彼女の顔に何かがぴたりと被さっていることに気付いた。
鞄から自作の辞書(と言っても、覚え書きの様なものである)を取り出すと、ページをぱらぱらと捲る。
そのうちに、あるページに探していたものがあった。
踊る彼女の顔に被さっているのは、マスクというものだと記されていた。
マスクとは自分の顔を隠して誰か分からなくする物だと書いていた。
あの少女はこの部屋の主なのだろうが、何故顔を隠しているのだろう。
その理由が辞書に載っているはずもなく、私は彼女に直接聞いてみることにした。
「やあ、どうも」
声をかけると彼女は踊りを止めたが、何も喋ることはなかった。
私は彼女の様子を伺いながら聞いてみた。
「その素敵なマスク、どうして着けているのですか?」
私がそう言うと、彼女は私の手をとった。
そして、着けているマスクに触れさせた。
私はマスクを慎重に外した。
マスクの下にあったのは、キラキラと宝石のように輝く瞳だった。
あんまり美しいのでじっとみつめていると、彼女は口を開いた。
すると、彼女の口から宝石がぽろりと落ちた。
もう一度喋ろうとすると、また一つ。
彼女は困ったように眉を下げた。
「成程、貴女は口から宝石が出るからマスクを被っていたのですね。実に興味深い…」
彼女は少し顔を赤らめるとマスクを被り直して、もう一度私の手をとった。
そして部屋の真ん中に私を連れていくと、指を鳴らした。
すると、何処からともなく音楽が聞こえてきた。
彼女はくるくる廻ると、服の裾をつまみ上げて会釈をした。
これはどういうことなのだろうか。
私が困った顔になると、彼女は私の周りをくるくる廻り、もう一度会釈をした。
これはつまり、私をダンスに誘っているのだろうか。
私が彼女の真似をして会釈をすると、彼女は音楽に合わせて踊り始めた。
私は踊るのが上手なわけでもないが、彼女が一緒に踊ってくれるならと、彼女の踊りに合わせてくるくると廻った。
そうして私達は、音楽が終わるまで観客のいない豪邸で踊った。
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