第2話精霊流し

 満月の光を浴びて、その生き物はキラキラと輝いた。

私はそうっと手を伸ばすと、両手で包みこむように優しく抱いた。

身体は優しい光を放ち、輝く瞳は星のようだ。

この生き物は精霊というらしい。


 このセカイはうらめんと呼ばれ、もうひとつの世界、おもめんと対として存在している。

おもめんは、人間という生き物が生きる世界なのだという。

うらめんはおもめんとは違い、人間は存在しない。

その代わりに、うらめんには様々な「部屋」があり、その部屋には住人として一人ずつ「少女」が暮らしている。

部屋を繋ぐ道は常に変化しており、同じ道を通っても同じ部屋に辿り着けるとは限らない。

私ももともとはある部屋に住んでいたが、あることをきっかけに「旅人」となってセカイを旅している。


精霊とはこのセカイで「少女」になれなかった命のことらしい。

精霊は確かに「少女」の様な姿をしていた。

ただ、「少女」に比べて遥かに小さく、私の両手に収まるほどの大きさであった。

私は精霊を抱きながら、友人の話を思い出していた。

精霊は生まれてもすぐに消えてしまうという。

「少女」になれず不安定な存在の精霊は、その身体に宿る命を燃やして輝いているのだと。

今私の手に抱かれた精霊も、命が尽きれば消えてしまう。

とても儚い、命だ。

私は精霊に話しかけた。


「貴女もこのセカイで生きたかった?」


 私の問いに応えるように、精霊はひゅうと息を吐いた

 生きたい。

 そう言っているように思えた。


私は暗闇を走った。

私の手の中で消えていく命。

まだ、まだ消えないで。

儚く静かに燃える命を抱いて、私は必死に走った。


 やがて、闇の向こうに光が見えた。

私は光に向かって真っ直ぐに走った。

光に近づくと、ただ闇しかなかった景色が移ろいでいった。

無数に輝く光。

でこぼことした道。

ゆっくりと流れていく川のせせらぎ。

その場所は、宇宙に流れる天の川だった。

私は鞄から紙きれを取り出すと、それを折って小さな舟を作った。

そしてその舟に精霊をそっと載せると、天の川に慎重に流した。

紙の舟は川の流れに乗ってゆっくりと進んだ。

精霊流し。

精霊を天の川へ流すと、大いなるお父様が拾ってくださり、星に変えて夜空に迎えてくださるという。

消えるはずの命を救う唯一の方法だという。

私はゆっくりと流れていく舟を、見えなくなるまで見送った。

きっと、きっとお父様は精霊を拾って下さる。

彼女は星となって生きるのだ。

夜空を見上げれば、きっとあの精霊が輝く姿を見られるだろう。

ほんの少しの寂しさと悲しみが込み上げてきて、私の目から一筋の水が流れて落ちた。

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