ともだち
白くて大きな校門。近代的な雰囲気を持つ校舎。
やっぱり名門校は違う。うちの古い校舎とは大違い。
私は今、学校が終わって校門の前で雨宮さんを待っていた。
待ち合わせって、初めてだな。昔から親しい友達なんて、いなかったから。
身体がチクチクする。その正体はわかっていた。目線の矢。俯いていても、何となくわかった。
矢でそのままグリグリえぐられるような感覚。
落ち着かない。
そわそわと手をいじりながら待っていると、バタバタと走ってくる音がした。
「あ、いたいた。波澄さーん!」
すぐわかった。このまあるい声、雨宮さんだ。雨宮さんの大きな声に、周りの人がぎょっとしながらこちらを見た。
「声大き、恥ずかしいです」
「ごめんごめん。波澄さんが来てくれて、嬉しすぎて、それでつい…」
えへへっと照れながら、満面の笑みを浮かべている。
「ちょっとナギ!あんたいきなり走り出してどうしたのよ」
雨宮さんの後ろから、ショートカットで長身の女の子が追いかけてきた。すごく、かわいい。
なんというか、おしとやかなかわいさというよりかは、活発で、面倒見の良さそうな子だ。
目は丸くてパッチリ。やわらかそうな髪の毛は、くせっ毛なのか、少しはねている。
雨宮さんの隣にいると、とってもお似合いなカップルに見える。
雨宮さんの彼女だろうか。いや、でも彼は私に『一目惚れした』って言ってたし…。
悶々と1人で考え込んでいると、その女の子が私に気づいた。
「あれ、誰この子。ナギの友達?」
「そうそう!俺の友達…って段階ではないか。んー、知り合い、かな」
「へぇ〜。あたしは
人懐っこい人なんだろうな。なんか後ろにひまわりが見えてきた。
「波澄フウ、です。よろしくお願いします」
「波澄さんは何歳なの?あたし17歳。高2」
「私も同じです」
同じ歳の子だったんだ。なんかすごく大人びているな。
「えー!?波澄さん僕と同い年?うれしー!じゃあ、僕のことナギって呼んでよ。それとタメ口で!」
「あ、ナギだけずるい!私にもタメ口でしゃべって!それと、私のこともニチカって呼んで」
いきなり距離近いな、この人たち。
「それ、強制ですか?」
「強制!じゃないと私、不審者だーって大声出しちゃうよ」
なんでそこまでこだわる必要があるのだろう。けれど、私の外見で不審者なんて叫ばれしまったら、絶対誤解される。それは勘弁だ。
私は、はあっとため息をついた。
「じゃあ、ニチカとナギ、よろしく」
「うん、よろしく!じゃあ僕たち、もう友達だね!」
2人の顔がぱあっと嬉しそうにほころんだ。
もう友達なのか。あかりに照らされて生きてきた人たちの考えていることは理解できない。どうせいつか離れるっていうのに、なんでそんなに大切なものを作りたがるのだろう。
「あ、僕、教室に忘れ物しちゃった。ちょっと取ってくるから、二人ともここで待ってて!」
そう私たちに言うと、ナギは走ってった。
「めずらしいな、ナギが忘れ物することなんて、今までめったになかったんだけどな」
「ねえ、ニチカって、ナギの彼女なの?」
ふと気になって聞いてみると、ニチカは顔を真っ赤にして、そんな訳ないじゃん!とぶんぶん首を横に振った。
わかりやすいなあ。
「ナギとはただの幼なじみだよ。家が隣で、小さい頃からいつも一緒なの。ナギはすごいんだよ。勉強がすごくできて、テストでは毎回1位。スポーツ万能で、サッカー部ではキャプテンで、ピアノも弾けて、2年生なのに生徒会長までやってるの。そのうえみんなに優しいから、他学年の人たちも凪のことを信頼しているんだ。先生やナギの両親も、ナギにすごく期待しているんだよ」
ニチカは、目の前の花壇に植えてある紫色のパンジーを、ほうっとした視線で見つめた。
「そういうフウこそ、どうやってナギと出会ったの?」
「転んだときに、助けてもらったの」
ここで本当のことを言うべきではないと思った。ニチカの話からするに、ナギはthe・優等生という感じなんだろう。そんな人が気味の悪い女子と心中するなんて話が飛び回ったら、彼の地位が危うくなる。それだけ、人間は見てもないことを聞いただけで信じるのだから。
「そうなんだ。確かにあいつは困っている人を助けちゃうやつだからな〜」
困っている人、か。
少し変な気持ちになったけど、それはナギがこちらに向かって放つ、おーい!という大きな声によって、かき消されてしまった。
また風に抱きしめられるまで、何時までもここで待っている 泡沫湖月 @1603kogetsu
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