第40話
「……ん」
光が、差し込む。ここは洞窟の中のはずなのに、外の世界と同じように昼と夜が訪れる。どこから光が入ってくるのか、全くわからないけれどこれもヴァンパイアの力なのか。
尤も、ヴァンパイアは陽の光があまり得意ではないから、この光は人工的なものだと思う。
「……起きたか」
ふかふかの布団に沈み込む私の身体を抱き寄せるのは、この世界でたった一人だ。
瞼を押し上げれば、そこには安堵したような和らいだ表情をする皇子。眉を下げて笑う彼は、どこか疲れている。目の下にうっすらと浮かぶ隈を撫でればその手を絡め取られた。
「……お前が心配で、ほとんど眠れなかった──と言ったら、可笑しいか?」
真剣な顔で見つめられて胸が高鳴る。彼の瞳は、怒っているようで。だけどそれを言葉にはしない。
「……ごめんなさい」
あの状況では他に方法がなかったのだと、皇子も痛感しているのが分かる。だからこそ、私を咎めはしないのだ。
「お前が、死んでしまうかもしれないと──恐怖で震える私は、可笑しいだろう?」
皇子に掴まれた私の手が震えている。……そう思っていたけれど、震えていたのは皇子の方だった。
「皇子──」
「もうすぐ──お前は消えてしまうというのに」
そんなに切ない顔をしないで。あなたに抱く思いが溢れ出てしまう。
どれだけ苦しくても、あなたが助けに来てくれると思えばなんだってできた。どれだけ辛くても、あなたがいれば笑顔になれる。だけど──。
……元いた世界に帰ってしまえば、もうそんな彼もいない。
胸が、軋む。
「もう、三日も眠っていたのだぞ」
タイムリミットは、もうすぐそこだ。
「国民たちはお前の意識が戻るのを心待ちにしていた。それほどお前が愛されている証拠だろう」
皇子の腕の中で、彼の胸に寄り添う。皇子も私の頭に頬を擦り付けている。
「……あの人たちは助かったの?」
私が血を与えた人たち。彼らの安否は、皇子の表情ですぐに判明した。
「ああ、大丈夫だよ。ルーチェを摂取してすぐに禁断症状も治ったからな」
全員が無事だと分かってホッと胸をなでおろす。そして同時に、聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「ルーチェ?」
そんな私に「ああ、知らないのか」と呟いて、説明してくれる。
「血は、我が一族の間では古より“ルーチェ”と呼ばれてきた。それが当たり前のことであったから、意味など気にしたことはなかった。……だが、ある時ふと気になってな。調べたのだ。
──その言葉の意味は“光”。
血とは私たちにとって“餌”などではなく、生きるための“光”なのだよ」
皇子の告げる一言一言がとても重いもので、私はただ頷いて聞き入った。
「……だから、お前自身も私たちにとって“光”なんだ」
ばっと顔を上げて、皇子を見る。私がこのアトレアにとって光なのだとしたら、私のとっての光は──きっとあなた。
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