第34話
街の人々と残り少ない時間を過ごした後、診療所へ辿り着く。
「……何か様子が変だな」
扉に手をかけたエヴァンからピリッと鋭いオーラが出る。
診療所からはいつも穏やかな話し声や笑い声が聞こえてくるのに、今は喧騒ばかりが耳に届いてくるのだ。
「サラ様はここに……」
エヴァンが私とエリンを制止しようと腕を伸ばした
──その時だった。
「……っ?」
何か大きなものが投げ飛ばされたような地響きと、女性の叫び声が聞こえてきたのは。
「サラ様……っ!」
制止しようとしていたエヴァンの腕を振り切ってドアを勢いよく開けた。
「これは……」
怯えたような瞳がこちらを向く。いつも仕事を手伝ってくれている女性たちが部屋の隅で身を縮こませているのが分かった。
部屋は荒れ、所々血が飛び散っているのも見て取れた。女性たちの誰かが巻き込まれて怪我をしたのかもしれない。
「血……!血をくれ……!」
この現状の原因は半狂乱になってしまっている人たち。治療を受けていたはずの男性が十名ほど荒れ狂っている。求めているのは、血だ。
「どうして……っ」
答えを求めるように女性たちに視線を投げれば、一人が震える声で言葉を発した。
「今朝、届いた薬を飲ませた途端……このような状態にっ」
……薬?
「今日は薬の手配はしていないはずだが!」
「ですが、たしかに……!」
エヴァンが指摘するが、女性たちは訳もわからない様子だ。
「……今は、原因なんてどうでもいいよ。この人たちをどうにかしてあげないと」
私はそう言った後、エヴァンに向き直る。
「血を飲まずにいたら、死んでしまうの?」
「……ああ」
私の問いかけに、端的に答える。その表情は重々しい。
「本来、この診療所にも血は定期的に届けてあります。血に狂うようなことはないはずだ。」
女性たちを見遣るエヴァン。彼の向ける疑念を晴らそうと女性たちは口々に答えた。
「もちろん、定期的に摂取しておりました!」
彼女たちの焦燥ぶりを見るに、血を与えなかったわけではないだろう。
「なぜ、このように……っ」
エリンが唇を噛み、拳を握りしめた。そしてエヴァンから、衝撃的な言葉が放たれた。
「ここまで禁断症状が出ているとなると……あと数十分しか持たないだろう」
息を飲んだのは私だけだった。エリンも女性たちも最悪の状況であることを分かっているようで、その言葉に目を伏せる。
「血のストックは?」
「それが、なくなっていて……!昨晩までは確かに貯蔵庫に保管してあったのに……!」
解決策を練っている間にも、男性たちは目の前でのたうちまわって苦しんでいるのだ。
「城から血をもらってくるとしたら、最低でもどれくらいかかる?」
「……最低でも、45分。微妙な時間だ」
眉間にしわを寄せたエヴァン。だが彼の表情から今のところ、それが最善の方法であると私にも分かった。確実ではなくても、今なら間に合うかもしれない。
「なら、エヴァン。今すぐ向かって」
「……しかし」
「今は考えてる暇なんてない!はやく!」
私の剣幕に押され、エヴァンは診療所を飛び出していった。
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