第35話
私は女性たちの前へ行き、庇うように片腕を伸ばす。
「ぐぁぁ……!」
先程から着実に悪くなっていく症状。首元を掻きむしって渇きを誤魔化そうとしているのだろうか。
──たった一つ、残された解決策がある。
それは何も分からない私にも思いつく方法なのだから、エヴァンを含めここにいる人たち全員が気づいていることだろうと思う。だけど、それを誰一人口にしない。仲間が危険であるというのに、どれだけ優しいのだろう。
「……簡単なこと、だよね」
ポツリと呟いた私の意図を汲み取ったのか、エリンがはっとしたように私の前へ出る。
「……変なことは、お考えにならないでください」
エリンが隠すように私の前に立ちふさがってくれているけれど、苦しむ彼らにだってきっとバレている。
──そう、簡単なことなのだ。
私の身体に流れる血液は、正に彼らが欲しているもの。それを分け与えれば良い。それだけなのだ。
それだけ、なのに。彼らは──微かに残った理性を奮い立たせて、彼ら自身が私を噛まないように必死で自分を押さえつけているようだ。
「今の彼らは飢えている分、加減ができなくなっています!命を落とされる気ですか!しかも相手は一人や二人ではないのですよ!?」
エリンは初めて私を叱咤した。いつもの笑顔なんて消え去っている。だけど──。
彼らはいつも、優しかった。人間だからと貶さなかった。エヴァンや皇子の側にいるから仕方なくだったかもしれない。だけどいつも見守ってくれた瞳は温かくて、毎日のように通う私を歓迎してくれた。気を遣ってくれていたけれど、特別扱いはしなくて。冗談を飛ばし合うくらい打ち解けて。みんな、いつも笑ってくれていた。
「……私の血を、飲んでください」
気付けばそう、告げていた。
「サラ様!」
エリンの焦った声も、周りの騒めきも、どうだっていい。
──だって今彼らを助けられるのは、私しかいないじゃないか。
「ダメ……ですっ、それは……」
必死で制止しようとする男性。一番辛いのは、あなたたちだっていうのに……それでも私を大切にしてくれるんだと、場にそぐわない笑みを浮かべる。
「……私は、血を飲むことが悪いことだとは思わないよ。だって、あなたたちはそうしないと生きていけないのでしょう?人を殺めてしまうのはどうかと思うけれど、それは私が人間っていう立場だから。人間だって動物を殺して肉を食らっているんだよ。動物は殺して良くて人間はダメ、だなんてそれは私たち人間のエゴだもの」
女性たちも涙目で私を止めようとしてくれる。だけど、決めたの。
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